インタビュー:サウンド・門倉聡

[砂塵舞う世界を音楽で表現]

『メタルマックス』の唯一無二の世界観を構築するのになくてはならない要素といえば、ゲーム中に流れる“ロックな音楽”。数々の印象的な旋律をつむぎ出し、『メタルマックス3』でも「宿敵」や「煉獄ロック」といった名曲を生んだ作曲家の門倉聡氏に、音楽制作中のエピソードや、発売中のオリジナルサウンドトラックCDについて聞いてみた!

——まずは、門倉さんが『メタルマックス(以下『MM』)』シリーズの音楽制作に携わるようになった経緯を教えてください。

門倉:宮岡さんとお会いしたのは、お世話になっていたプロデューサ一の紹介で参加することなったゲームの開発現場にご挨拶にうかがったときですね。結局、そのゲ一厶は発売中止になったのですが、あらためて宮岡さんから『MM』のプロジェクトに誘っていただきました。といっても、1作目の作業はほとんど覚えていないんですよね(笑)。ただ、ファミコンで3音とノイズしか音が使えないなか、宮岡さんのイメージする“世界崩壊後+西部劇”の世界観を表現する“ロックな音楽”をどう作るか苦労した印象だけが残っています。そのときの通常戦闘シーンの曲をあらためて聞き直すと、かなりテンポが速いですが、それはおそらく少ない音数で曲を間延びさせないための手法ですね。1作目がかなり濃い曲になったため、シリーズを重ねるに連れて濃くなる一方で(笑)。当時は、データイースト内のサウンドチームのみなさんが手伝ってくれて、とても助かりました。「好きに作ってください。それをファミコンで再現しますから」とまで言ってくださつて感謝でしたね。

——そのご苦労された『MM』シリーズで、今回は17年ぶりのナンバリングタイトルということで、門倉さんの感慨もひとしおだったのでは?

門倉:日の目を見なかった作品を含め、宮岡さんの作るタイトルにははとんど参加させていただいていたので、自分の中ではシリーズがずっと続いてしる印象がありました。だから『MM3』の音楽制作の打診を受けたときも、「才ッ、再開したのか」と自然な感じで。それでも、一時期は『メタルマックス』の名前が使えないくらい問題が山積みでしたから、そこを多くの人たちのご協力でクリアできたことが本当にうれしかったですね。ただし、実際の作業の段階ではかなり悩みました。テレビに繋いで遊ぶファミコンやスーバーファミコンと違って、ニンテンドーDSの音は本体のスピーカーからょく聞こえることを大前提に作る必要がある。とくに『MM』の音楽の肝となる、ディストーションサウンド、いわゆる“歪んだギター”の低音が出にくいニンテンドーDSでどう再現するか……。そこで悩んだのですが、原点回帰として『MM』や『MM2』の流れに戻ろうと考えました。といっても、曲を使うシーンを選ばれるのは宮岡さんなので、意外な使われ方をして驚いた曲もあります。

——えっ!?制作する曲について、宮岡さんからは具体的な指示はないのですか?

門倉:「バイクに乗っているとき」とか「ダンジョン用の曲はこれだけ必要」とか、用途や曲数の簡単な指示はありますが、具体的にどこに使われるかはフタを開けてみないと分からない(笑)。僕がつけたものと使われている曲名も最終的には違っているから、後日、サウンドトラックCDを制作するときに混乱して、ゲーム中のジュークボックスで確認しちゃいましたよ。ドールハウス用のつもりで明るく楽しげな曲として作ったものが、シセの家で流れてビックリ!そういう曲の用途変更で驚かされたのは、シリーズでいちばん多かったかもしれませんね(笑)。

——そのほかに、ご苦労された点などは?

門倉:戦闘系の音楽についてはかなり細かい指示をいたたきました。宮岡さんから、こんなに指示があったのは初めてかも。その熱意に僕も触発されて、いろいろと意見を戦わせた部分もあります。たとえば通常戦闘用として、まずは現在使われている「バトル」の曲を作ったのですが、宮岡さんからOKが出ず、その代わりに「宿敵」を作りました。ただ、僕としては「宿敵」は何百回とくり返す通常戦闘で聞くには曲として濃過ぎる印象があり、戦闘がすぐに終わってしまうとイントロだけしか流れない。そこで、もとの無味乾燥だけど、戦闘をした気にさせてくれる「バトル」に戻すように強く主張して、最終的には納得していただきました。結果として「宿敵」も印象的なシーンで曲が流れることになり、ユーザーのみなさんにも愛されているようでよかったです。そういえば、主題歌の歌詞を最初は宮岡さんにお願いしたのですが、お忙しいとのことで別の方に発注したのです。でも、完成した音楽を宮岡さんにお送りしたところ、ひと晩で「使わなくてもいいから」と「コーラ、その愛」と名づけられた熱烈なラブソングの歌詞が届いたんです。その思いをくみ取ってエンデイングで流れる「炎つぐもの」という曲が生まれたというわけです。

——幅広い分野でお仕事をされていますが、ゲームとばかの音楽との違いはどこでしょうか?

門倉:ゲーム音楽といっても、僕はほぼ宮岡さんの作品専属ですので単純な比較はできないのですが、ゲーム音楽を作るときは本当に自由にやらせてもらっています。たとえば、従来の仕事であるアーティストのプロデュースや編曲は、あくまでアーティストありきで、人物の魅力を聞き手にどう伝えるかを強く意識します。映画音楽の制作は、使われるシーンと秒数を綿密に計算しなければいけません。それにぐらべて、ゲーム音楽は制作時間の関係でゲーム本体のプログラムと音楽を並行して進めなければならない状況が、逆にコンセプトの枠からはずれさえしなければ自由にできる要因ではないでしょうか。もちろんハード上で表現できるかどうかという制約はありますが、それもやりがいのひとつ。じつは僕もゲームをよく遊んでいまして、いちファンとして挑戦的なゲーム音楽も大好きですから、それに負けないように僕自身は「ゲーム音楽を作っている」という気持ちではなく、ゲームという存在に対して挑む気持ちで臨んでいます。ただし、ゲーム音楽は純音楽ではない。ゲームの世界を表現するためのいち要素として出しゃばり過ぎず、いっぼうで曲の垂れ流しではなく、印象に残るものでなければいけないと考えていまして、そのバランス感覚は常に忘れないように心掛けています。20年来のお付き合いとなる宮岡さんがチャレンジャーであり続けられていることが、なおさらそのように感じますね。

——ちなみに、門倉さんの『MM3』のプレイ状況はどの程度まで進んでいらっしゃるのですか?

門倉:2周目のエンディングを迎えて継続プレイ中です。大砲の「土星バースト砲」がほしくて、土星クラゲとくり返し戦っているのですが、全然落とさないんですよね~。だから、もうあきらめて3周目に移行しようかどうか悩んでいます(笑)。『MM』シリーズ経験者ですから、パーディメンバーはごく自然な流れで主人公、ソルジャー、メカニック、犬を選んでいます。クルマの構成は、典型的戦車タイブのRウルフとラスプーチン、SF映画を思わせる近未来的なデザインが好みのディノヒウス。とくにラスプーチンは大好き!巨大戦車に「ザウルス砲」のようなこれまた巨大な大砲を載せるのがいいんですよね。最強を目指すなら、「ひぼたんバルカン」や「スモールパッケージ」が才ススメでしょうが、僕は“大艦巨砲主義”なので大砲重視です(笑)。

——そういえば、門倉さんの周辺でもプレイされている方がいらっしゃるとか?

門倉:そうなんですよ。シリーズ未経験のプレイヤーは、意外なパーティー構成だったり、クルマが全然揃っていなかったりして眺めているだけでも楽しいんですよ。終点は同じでも、過程はプレイヤーごとに全然違う。プレイヤーのいろいろな可能性を受け止める自由度が『MM』シリーズの魅力だと思います。上空高く消えたモンスターに、犬が飛んで体当たりしたり、本当に開発者が楽しんで作っている感じがヒシヒシと伝わってきますよね。ラストボスを倒したジャガンナートの艦上で、主人公とコーラが水に飲まれるシーンなんて、いかにもロマンチストな宮岡さんらしいイベントですよ。

——2010年12月22日には、ファン待望の『メタルマックス3オリジナルサウンドトラック』が発売となりましたね!

門倉:原点に戻ろうと制作した『MM3』の音楽ですが、やはりハードの特性上、すべてをゲーム中で表現できたわけではありません。そこで、このサウンドトラックのDISC1には、ソフトに落とし込むまえの楽曲制作機材で作ったオリジナル音源を収録しています。「DSでは低音とかは出ないだろうな~。でもこんな音楽が流れたらいいな〜」という、いわば僕がイメージした理想の『MM3』音楽ですね。それに対してDISC2は、アンケートで寄せられたファンの皆様の熱い思いを受けて、「ハンターズリクエストトラックス」の名に恥じない、とにかく濃い“決定版”ともいうべきアレンジバージョンが完成しました。

——CD制作でご苦労されたことはありますか?

門倉:収録曲では「Dr.ミンチに会いましょう」には苦労しましたね。この曲は個性がすごく強いし、僕にとって鬼っ子的な扱いにくい存在なんですよ(笑)。宮岡さんの「アイドルみたいな曲がほしい」とのリクエストに応えてできた曲ですが、作曲した当時から「『MM』の世界観に合わないんじゃないかな~」と半信半疑でした。だから、今回どうアレンジすればいいのか悩み抜いたすえに、思い切ってボーカル曲にしてみました。あとはおなじみの「お尋ね者との戦い(Hunter's Request ver.)」は、本来“ハードロック”だった曲がひとり歩きし始めて、ファンの間でいろいろな解釈がされている現状を踏まえ、そのひとつのとらえ方であるへビーメタル版にアレンジしてみました。ただ、へビーメタル過ぎても僕としては納得がいかず、“ヘビーメタルに寄ったハードロック”になるまで何度も調整し、完成までにいちばん時間がかかりました。ちなみに、CDに収録したバトルメドレーが『MM2』→『MM3』→『MM』の順番になっているのは、1作目の戦闘の音楽がテンポがあまりに速く、かつ濃過ぎる曲なので、最初に聴くのに適さなかったからです(笑)。サウンドトラックつきの限定版ゲームソフトを買い逃した方は、おそらく初めて触れることになる曲かもしれないメインテーマ、「炎つぐもの」のボーカル版も必聴ですよ。ゲームのエンディングを見てからCDで聞き直すとよりグッと来ると思います。

——最後に、本書を購入してくれた『MM』ユーザーのみなさんにひとことお願いいたします。

門倉:『MM』シリーズの復活も『メタルマックス3オリジナルサウンドトラック』の発売も、ファンの皆様の絶大な支持のおかげで実現しました。そのお力があれば、某大作RPGのように『4』『5』『6』……と続けていけるはずです。今後ともぜひ応援をお願いいたします!そして、もし新しいサウンドトラックを作る機会をいただけるのならば、その際は歴代シリーズのボス戦メドレーなんかも作ってみたいですね。

——本業もお忙しいとは思いますが、ゲーム音楽家としてのご活躍も期待しております!本日はありがとうございました。

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mms/archives/mm3_creator_interview_05.txt · 最后更改: 2021/04/30 16:30