変貌への序曲
お仕事としてゲームを作る場合、外注会社であるぼくの会社は、いつも発注元のメーカーさんと契約を交わす。しかし正直言って、今回の契約が成立したときほどうれしかったことはない。もう一度、自分たちの手で『メタルマックス』の続編が作れる!(正確に言えばタイトルは『メタルマックス』では有り得ないわけだが)
何はともあれ、この喜び。言葉ではとても言い尽くせない。
商標がらみの問題が複雑化して、一度はあきらめようと腹をくくったこともある。この場を借りて、あらためて株式会社サクセスさんに感謝の意を表明したい。サクセスさんの奮闘なかりせば、このような形でシリーズの新作が作られることはなかったであろう。
さて、今回の『鋼の季節』をデザインするにあたって、いちばん楽しく、同時にいちばん悩んだのが、ニンテンドーDSという、過去に類例のない斬新なハードウェアに、ゲームとしてどう対応するかという点である。すべてをタッチペンで操作することは、具体的なデザインに取りかかる前から決めていた。そしてそれは、ぼくの中では、マップをクォータービューで表示したいという欲望と、切っても切り離せないものだった。クォータービューというのは、マップ上に存在するほとんどのものを、斜めからの視点で描画する主砲、もとい、手法である。2D表示でありながら、かなり立体的に「世界」を表現することができるのが、クォータービューの魅力だ。しかしこれまでのゲーム機のコントローラの十字ボタンでは、自分たちを動かすときにボタンを斜めに入れなくてはならず、そこがどうしても構造的欠陥になってしまっていた。ぼく自身、いつかはやりたいと思いながら、その欠陥ゆえに実現を見送ってきた手法なのだ。しかしタッチペンで操作するのなら、もはや十字ボタンの制約はない!
じっさいにゲーム画面の中を歩いてもらえれば、ユーザーの皆さんにもわかっていただけると思う。もちろん最初は、タッチペンでの操作そのものが「新しい」ものであるために、多少のまごつきを感じるかもしれない。しかしいったんタッチペンに慣れてしまえば、何の違和感もなくこの世界を歩き回ることができるはずだ。あまりにも自然なので、どうして今までこうでなかったか、不思議なくらいである。
「鋼の季節』の重要なキーワードのひとつは「変貌」だ。前述のタッチペン操作やクォータービュー表示の採用により、必然と変えざるを得なかった部分もあるけれども、意図的に新しいことに挑戦してみた部分もある。たとえば、イベントのときに表示されるキャラクターたちのバストアップ画像。またいろんなイベントで、これまで自分で禁じ手にしてきた長ゼリフにも、あえて挑戦してみた。グラフィックの今井氏、音楽の門倉氏にもさんざわがままを言って、多くの新キャラ、新しいモンスター、そして新曲の数々を作っていただいた。おふたりにも感謝!
ほかにも、新しい職業、スキルや特技の追加、DSの2画面を生かした新しい探知機の数々、さらには装甲タイルシステムの廃止、乗れるクルマは1台だけ、クルマの改造の仕方の変更など、昔からのファンの方々にはお叱りを受けそうなことにまで、あえて挑戦してみた。それは、これまで自分たちが作りあげてきた仕組みを破壊しなければ、新しく生まれ変わることはできないという、強迫観念にも似た思いこみの結果だ。自分では「ゲーム性と物語性の両立」を目標にしたつもりではあるけども、果たしてその「変貌」の成果は、正解や否や!?ぜひ、ひとりでも多くの方にプレーしていただいて、ご意見やご感想をお聞きしたい。ぼくは自分自身でもRPGが大好きだ。
この『鋼の季節」が、買ってくださったユーザーの皆さんを楽しませることができるRPGであることを心から願う。昔からのファンの方々、この作品が初めてという方々、これからも『メタルマックス』と『メタルサーガ』をよろしくお願いします!
宮岡寛プロフィール
1958年、山口県防府市生まれ。早稲田大学第1文学部中退後、フリーライター。ももに集英社、小学館の雑誌にて活躍。週刊少年ジャンブに連載した「ファミコン神拳」が爆発的人気を博す。シナリオアシスタントとして、「ドラゴンクエスト」の立ち上げに参加。「ドラゴンクエスト」、「同Ⅱ」、「同Ⅲ」シナリオアシスタント。その後ゲームデザイナーとして独立し「メタルマックス」を生み出す。週刊フアミコン通信に連載された岡崎つぐお作画「あそびじゃないの」など、漫画原作者でもある。有限会社クレアテック代表取締役。
上記以外の主な関連作品
「メタルマックス2」「メタルマックスリターンズ」「ピキーニャ!」「タワードリーム」、「同2」「幻獣旅団」「天空のレストラン」……他多数
※『メタルマックス』:1991年、1993年、1995年データイースト作品・新宿EXP商標
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