『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』座談会
ネタバレあり!座談会
シリーズ最高の興奮とともに熱きRPGが新たなるドラマを紡ぎだす!文明の破滅した近未来に、月光のディーヴァ降臨。
10月下旬・都内某所で行われた『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』のクリエイター陣による超豪華な座談会の模様を3週にわたってお届け! 開発秘話がたっぷり詰まった盛りだくさんの内容です。
目 次
第1回 初期設定・楽曲・コミック編(2013年12月12日(木)公開予定)
■今だから言える! サーシャはこうして生まれた
■思わず聞き惚れる! 『4』の楽曲たち
■プレイ前に必読!? 『Limited Edition』のオリジナルコミック
第2回 声優編(2013年12月19日(木)公開)
■じつはギリギリ!? 宇宙ドールの声
■かなり大変! 『4』のスタジオ収録
■ファンは必見!? 印象に残ったボイスとは
第3回 ゲームシステム編(2013年12月26日(木)公開)
■愛とこだわりが満載! 戦闘システム秘話
■その名の由来は!? ダーマス神殿の謎
■かつてない強敵に挑め! ダウンロードコンテンツのWANTEDモンスター
PROFILE
第1回 初期設定・楽曲・コミック編
今だから言える! サーシャはこうして生まれた
久保:『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』(以下、『4』)の完成、おめでとうございますー!
一同:おめでとうございますー!
久保:週刊ファミ通では、『メタルマックス』シリーズ初のプラチナ殿堂(9.9.9.8点 計35点)です!
門倉:おお! プラチナ殿堂!
宮岡:うれしいですね!
久保:さっそくですが宮岡さん、じつはずっと知りたかったことがありまして。初期の物語の構成は、どういった発想で考えられたのですか?
宮岡:まず、企画会議で「おねーさんがバイクになる」というのが決まりまして(笑)。
久保:当時、自分もその会議に参加していて、密かに「おねーさんがバイク? マジかよ」と思っていました。
宮岡:で、その無茶な設定を活かす物語を作らなきゃいけない。『4』の舞台となる時代にはサーシャのようなアンドロイドを作る高度なテクノロジーはないので、“彼女は<大破壊>の頃の時代からやって来る”しかなかろうと。もし、あの無茶な設定がなかったら、ホットシードたちの物語は生まれていなかったかもしれません。
門倉:なるほど。
宮岡:どうやってユーザーを「ええー!?」と驚かせるのか? そこが大事ですから。
田内:“サプライズ”と言うヤツですね。
山本貴嗣:私が宮岡クンから「おねーさんバイク」の設定をもらった時、「これ、バイクになるパーツやエンジン、タイヤとか……おねーさんが背中にしょって歩いているのかな?」って思ったら、「いやぁそれは考えなくてよくて、ファンタジーでいいから」と。映画『ターミネーター2』の液状になるアンドロイド“T-1000”みたいなものかなって考えたら……。それから気軽にデザインできましたね。そうでないと、おねーさんが行軍している兵士のように、ものすごい荷物を背中にしょって歩いている、という絵になってしまう(笑)。
田内:でも、サーシャは山本貴嗣先生でないとデザインできなかったでしょうね。
宮岡:じつはオレ個人としては、最初に描いてくれたあまり変形していないサーシャに、主人公が乗ろうとしている絵が……あれがすごく好き。ただ、あまりにも人間っぽすぎたんです。それで結局は採用しなかったんだけど、あの絵はすばらしかった。
田内:あの絵、ウチの嫁さんにチラッと見せたら、「かっこいいバイクだね」って。まず、バイクと認識したんですよ。
久保:それはうれしい反応ですね。
友野:女性だから、イヤらしい方向に想像しなかったのかも(笑)。
久保:男だとやっぱり、つい、いろいろと……ね。
宮岡:まぁ、そうかもね。RCサクセションの名曲『雨あがりの夜空に』をゲームにしました、みたいな?
山本貴嗣:うまいことを言うね。
田内:サーシャの背中に乗るとなると、それはそれで逆に(笑)。
山本貴嗣:女性型のバイクは昔、マンガなどで見たことがありますが、どれもうつぶせで。私や田内さんは、「いや、どうせやるならのけぞりだろうと」(笑)。
田内:でも、サーシャバイクで事故っても、じつはおっぱいがクッションになるじゃん。「違うんだよサーシャ、事故なんだよ」と。でも、ヒナタの手がサーシャの胸に伸びている(笑)。
久保:「サーシャ、そんなつもりはないんだよ」って(笑)。
宮岡:……それだけで、1本ゲームができそうだな。
田内:『ヒナタの憂鬱』というタイトルでどう?
宮岡:企画、出すか! ジャンルは、“おねーさんバイクに乗るシミュレーター”で。
久保:膨大なテキストを宮岡さんが書いてもらえるなら。
田内:『サーシャとヒナタのただの日常』とかでも、おもしろそう。
山本貴嗣:ふたりでロングツーリングへ行くんです。ふたり並んで、夕日を見ていたり。浜辺をふたりで走っていって、なぜかサーシャだけバイクになるとか(笑)。
宮岡:ヒナタがサーシャに怒られているところとかね。
田内:寝ているサーシャにモンモンとするヒナタとか(笑)。
久保:サーシャ、薄着ですからね。
宮岡:……そうねぇ。アンドロイドだから、寒くないし。
久保:そういえば、サーシャのイラストが決まるまで、時間がかかりましたよね。山本貴嗣先生には何案も描いていただきました。
宮岡:『4』のキモとなるキャラクターだったので、山本貴嗣先生には申し訳なかったけど何回も。「おねーさんがバイクになる」ということをお客さんに印象づけたかったので。
門倉:ユーザーの反応、スゴかったですよね。
田内:ある意味、ユーザーに嫌われることをわかっていてやった部分もありました。でも、そこで冒険せずに普通に考えてくと、単なるバイクで終わっちゃうから。
久保:それではおもしろくないですよね。でも、サーシャって3Dモデルもかっこいいじゃないですか。
宮岡:当初のイメージからすると、もう少しメカっぽくてもいいかなっという感じだった。でも、さっきも言ったことだけど、山本貴嗣先生の第一案のサーシャがすごすぎて。
山本貴嗣:どんな絵でしたっけ。あの2色カラーのやつかな?
宮岡:やや俯瞰の視点で。
田内:通常版のパッケージイラストに近い形のデザインのもの。肌だけ色を塗ってもらって、車輪がクルクルと回っているヤツ。
山本貴嗣:ああ! あの絵は自分でもけっこう気に入っていたんです。なぜこの絵がボツなんだ……と。ガッカリでした。
『4』の開発当初、宮岡氏の依頼で山本貴嗣氏が描いた、第一案のサーシャとヒナタのイラスト。
宮岡:じつは、アニメ監督との最初の打ち合わせでね……。あの絵を見せた瞬間に、それまであまりやる気がなさそうな感じだった監督さんが「ん?」と、目を見張って。そのあと、目がキラーンと光って。
山本貴嗣:あの絵は、アニメ監督さんのテンションを上げるのに役立ったんだな(笑)。
門倉:アニメ監督さんは、ふつうのゲームか何かだと思っていたら……あの絵を見て衝撃が走ったんでしょうね。「こりゃいったい、何のゲームだよ」と(笑)。
大沼:そういえば、サーシャ役の佐藤奏美さんが言っていましたよ。「私、イベントでサーシャの格好をしないといけないんでしょうか?」って。
宮岡:おおー! あの格好、してくださるんですか?
大沼:ヒナタ役の下野紘さんが「オレ、乗ってもいいけど」と(笑)。
田内:そういえば、ネットでとある有名なコスプレーヤーがサーシャの格好をした写真がTwitterに上がっていましてね。ファンの男性がリツイートして「それには乗れるのでしょうか?」って(笑)。
久保:女性がサーシャの格好をやってみたいって、すごいね。
山本貴嗣:ある人が「サーシャバイクのコスプレがしたい」とおっしゃるんで、昔のバラエティー番組でよくあった肩から馬を下げているタイプでおやりになっては? と提案したら、「ヒナタのほうじゃなくて、サーシャバイクの方をやりたいのです」と(笑)。
友野:ヒナタをやるなら、ハリボテでサーシャバイクを作ればいいですけどね。
田内:ユーザーへのアンケートで「サーシャをソルジャーとして使ったか、バイクとして使ったか?」と聞いてみたいな(笑)。
門倉:僕は、サーシャはほとんどバイクでした。サーシャバイクは強いですよ~。序盤はずーっとサーシャバイクを使用していました。
友野:サーシャはソルジャーとしてもかなり強いので、バトルメンバーから外すかどうか、悩ましいところですよね。
田内:じつは、サーシャバイクには隠し仕様があるんです。バイクに乗って戦闘をすると、たまにキャラクターがダメージを受けるじゃないですか。ただ、サーシャってヒナタを守るために作られたアンドロイドなので、サーシャバイクにヒナタが乗っていると、ダメージを受けないんですよ。
大沼:マジで!?
田内:よく考えると「あれー?」って思う程度だけど(笑)。ほか、サーシャが人型の状態でヒナタがひん死になると、敵の攻撃からかばってくれるんです。
門倉:へぇ~、そうなんだ!
宮岡:でも、ヒナタが戦闘でひん死になることはあまりないじゃない。ヒナタがクルマから放り出されないといけないし。
田内:ゲーム序盤なら、そういうシーンを見られるかもしれないですよ(笑)。
山本貴嗣:そうそう、ゲームの序盤と言えば、ズキーヤの仲間が戦車ですれ違う演出。あれはいいですよね。
田内:「あの戦車に乗りたいー」と思うよね。
ゲームの序盤、サンデリゼからオールドソングへ向かう途中にある洞窟で、
月光のメンバーとすれ違うシーン。
山本貴嗣:ぼくはまだテストROMの『4』をクリアーしていませんが、あの戦車って乗れますか?
宮岡:同型の戦車なら、おいおい手に入りますよ。でもあの演出、何気なく「いいな」って思っていました。
門倉:今回、ヒナタたち以外のハンターがいっぱい登場しますからね。
宮岡:ここだけの話、本当はヒナタたちとズキーヤが所属する月光のメンバーが戦闘する予定だったんです。ズキーヤが“百人力のリキ”や“後ろのガストン”とかとパーティを組んで、ヒナタたちと一度戦わせようとか考えていて。そのほか、ズキーヤが裏切るという設定や、スパイとしてヒナタたちのパーティに入ったりとかね。ズキーヤはもともと月光と言うか、鬼婆が裏で汚い仕事も引き受けていることに納得できてないので。そんな中でズキーヤは、すっごく葛藤して悩む……みたいな。残念ながら今回はそこまで描ききれそうになかったので、割愛しましたが。
友野:ズキーヤについては、もっと掘り下げてみたかったですね。
宮岡:でも思いのほか、ズキーヤは難しい役回りになっちゃったんだよ。
友野:もしそうなっていたら、フラグ管理がさらに大変になっていたでしょうね。
田内:でも、序盤でまさかの展開もありましたよね。ゲーム序盤にヒナタがWANTEDモンスターと同行するって。
宮岡:マルデ・ファミリーのスエゴの演技はよかった。「あ痛てててっ!」というセリフ、最高ですよ(笑)。
思わず聞き惚れる! 『4』の楽曲たち
久保:メインキャラクターの中でも、サーシャとズキーヤは何かと時間がかかりましたね。
田内:偶然かもしれないけど、どちらの声優さんもオーディションの最後の人が受かっているんですよ。
宮岡:自分の予想とは違っていました(笑)。「誰を選ぶか?」で、ものすごく長い会議をしたよね。
田内:そうそう、オープニングテーマ曲を歌っている澁谷梓希さんを含めた i☆Ris(アイリス)も、いちばん最後の歌い手でした。
大沼:じつはあの曲、『4』の主題歌と公式発表する前に、i☆Ris(アイリス)が秋葉原で歌のタイトルのみを言ってライブを行っていたんです。けっこう好評でしたよ。
門倉:i☆Ris(アイリス)も「こういう話を頂いたことが、本当にすばらしいことで」と言っていました。よかったと思います。
大沼:そうそう、ズキーヤの『明日のうた』がすごくいいって聞きましたよ。
門倉:先日、ズキーヤ役の白石真梨さんのボイストレーニングをしたのですが、彼女、体がガチガチに堅くなっちゃって、いつも緊張状態みたいな感じなんです。当初、こちらがそれに気がつかないままレッスンをしていたので……そこは少し後悔しています。
大沼:でも、白石さんが門倉さんと出会えて“本当に良かった”とオレは思いましたよ。門倉さんのレッスンを受けてから、とてもうまくなった。彼女、すごく吸収力がありますし。
門倉:数回レッスンしただけですけど、だいぶ変わりましたね。
久保:ラジオ番組『METAL MAX RADIO』に白石さんが出演しているけど、アドリブもどんどんうまくなっていますからね。
大沼:白石さんは、本当にポテンシャルが高い方なので。門倉さんがイチオシしてくれたのがよかった。当時、門倉さんが「技術はまだあまりないけど、素直に聞いてくれていい人なんだ」と言っていたんですよ。
久保:そういえば、ぼくも門倉さんからだいぶお叱りを受けました(笑)。
田内:とくに開発の後半は立て込みましたもんね、音付けとか。
宮岡:ムービーの仕上がりもかなり遅れていたし。
友野:かなり心配していましたよ、現場は。「間に合うのか?」って。
門倉:『4』って、こんなに大変だと思わなかった。ボリューム的にね。いろいろなジャンルのサウンドをやりましたよ。
宮岡:すいません、無茶を言って……。門倉さんに弾いてもらったんです、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番『月光』の第3楽章を。
大沼:ズキーヤ、ピアノうますぎ! 天才すぎ(笑)。
このイベントシーンで流れるベートーヴェンの
ピアノソナタ第14番『月光』の第3楽章は、門倉氏が弾いたもの。
宮岡:じつは、ズキーヤの祖母にあたる鬼婆はすごくピアノがうまい。あるイベントで鬼婆がピアノを弾いているシーンもありますし。
久保:まぁ、裏設定でいろいろと。
大沼:そうなの?
久保:あと、“クロモグラ”の曲は印象に残りました。
友野:クロモグラの曲は宮岡さんと「どう使います?」と、よく議論しましたね。
門倉:そういえば、『メタルマックス』のライブのときに来ていたドラムの人が、ファミコン時代から『メタルマックス』シリーズをすごくやり込んでいて。『メタルマックス3』(以下、『3』)も7~8回クリアーしているって聞きましたよ。最後はパーティをひとりにしてプレイしたそうな。
田内:それは作り手的にうれしい話ですね(笑)。
門倉:このあいだ、ドラムの彼に『4』をプレイできる機会があったからやってもらったんです。最初は「楽しみにしているから、プレイするのは絶対にイヤだ」と言っていましたが、かれこれ2時間ぐらい遊んでいましたよ(笑)。
宮岡:本当におもしろいRPGって、クリアーした後もくり返し遊ぶじゃないですか。ずっとその場にいて、やり続けたくなる。そういうRPGが個人的に理想。
大沼:ボクもいまだにプレイしている『メタルマックス2:リローデッド』(以下、『2:R』)でエンディングを何度も迎えているけど、また依頼とか出てきて……もうハマりまくりだからね。
門倉:『メタルマックス』に関われて、本当に光栄でした。
久保:ここにいるメンバーで唯一『4』をプレイしていないのは、大沼さんだけですよね?
大沼:もう、勘弁してよー。いままで話がかみ合わないんだもの! こんなに『メタルマックス』が好きなのに!
CC山本:『4』もメチャクチャおもしろいですよ。
大沼:クソー!!!!!!
友野:でも、『2:R』はいまだにやっているんですよね?
大沼:やってるよ! ずっとやってる。いまだにやってるんだよ!
久保:じゃあ、『4』はいらない?
大沼:いるに決まってるだろ!!!!!!
プレイ前に必読!? 『Limited Edition』のオリジナルコミック
大沼:いいなぁー、オレも早く『4』をやりたいよ!!
山本貴嗣:(『Limited Edition』の中身を見て)このコミックを読んでから、『4』をプレイし始めるといいですよ。
門倉:あ、山本貴嗣先生もコミックの作業が大変だったらしいじゃないですか。
山本貴嗣:大変でしたよ~。
久保:『4』に挿入されるアニメ用など、いろいろと描き下ろしていただきましたから。
宮岡:あれはけっこう、キツかったでしょう(笑)。
山本貴嗣:ストレスが溜まって、どうしようもないこともありましたね。申し訳ないです。
久保:でもコミックも、いい作品になりましたよね。
『Limited Edition』に同梱されているオリジナルコミック
『笑うカドルス+設定資料集』を見て談笑する山本貴嗣氏と久保氏。
山本貴嗣:あのコミックは約1ヵ月間で描きました。アシスタントなしで、しかも『Limited Edition』のパッケージイラストも同時進行ですよ。
大沼:とんでもないスケジュールですね。
久保:『Limited Edition』に同梱されているコミック『笑うカドルス』ですが、どんな風に進んでいったのですか?
山本貴嗣:過去作のコミックと同様に、宮岡クンと相談しながらやりましたね。
宮岡:ゲームを作り始めた当時は、“ホットシードの仲間のひとりが、ヒナタたちのために死んだ”ということだけ決まっていた。ただ、どういう風に死んだかまでは考えていなかった。
山本貴嗣:「読み切りコミックを」と宮岡クンに依頼されたとき、最初はホットシードのメンバーが冷凍睡眠から復活して……といった群像劇にしようと考えたのです。しかし、群像劇にすると物語の焦点がボケてしまい、話がうまくまとまらなかった。そこで、いつものようにヒロインに的を絞り、語ってもらったほうがいいかなぁと思ったら……それからパッと物語が転がりましたね。
宮岡:山本貴嗣先生がすごいのは、物語が絵コンテになったときですね。電話で「こういうの、どう?」と伝えたら、「こんなものができるのか!!」と驚かされる(笑)。
久保:絵コンテもすごかったですね。上がってくるたびに「この物語、どうなるのだろう?」と先が気になりましたから。とくに、コミックで描かれているクロモグラが潜っているシーンは、ゲームにはないですからね。
CC山本:そういえば、クロモグラの内装の設定などの相談が、山本貴嗣先生からありました。
門倉:コミックを読むと、「クロモグラってこんなにすごい!」と思うよ(笑)。
宮岡:最初は、クロモグラやベルイマンに焦点を絞った物語にしようという案もあった。しょぼい新兵だったベルイマンが、なぜあんな風になったか? というストーリーでね。それも山本貴嗣先生とふたりで相談しつつ、あれこれ考えてみたんだけど、「ページ数が足らないね」と(笑)。
山本貴嗣:映画『フルメタルジャケット』の“微笑デブ”みたいなベルイマンがブチ切れて……。
宮岡:悪の帝王になる(笑)。その過程を短編コミックで伝えるのは難しいですよ。
CC山本:でも、このコミックを読むと、ベルイマンがどうして豹変したのかが、すごくわかる気がするんです。すごいですよね。
田内:じつは『4』の制作初期のころ、クロモグラはラストダンジョンの予定だった。クロモグラを壊して中へ入り、ベルイマンと最終決戦をするという設定だったなぁ。
久保:そうだったんですか!?
オリジナルコミックの「設定資料集」にある、モンスターに関するページを見る山本貴嗣氏。
山本貴嗣:(『笑うカドルス』の後にある設定資料集を見ていて)そういえば、WANTEDモンスターのウルリッヒは、地表に着地してからヒナタたちを蹴ったりするんですよね?
宮岡:蹴ります(笑)。モーションも音もけっこうおもしろくできています。グッジョブです。
久保:ウルリッヒは、ほぼ山本貴嗣先生の設定通りになっています。
山本貴嗣:それはうれしい! 設定や攻撃方法などを考えた自分としては(笑)。
久保:せっかく飛んでいるウルリッヒを撃墜したのに、「ええーっ」って感じで猛攻してきますよ。
山本貴嗣:「撃ち落としたー」と思ったら、それで終わりでないと(笑)。
田内:着地してからのほうが強烈ですから。
宮岡:あと、翼でヒナタたちを叩くし(笑)。
田内:バカボコバカボコと、気持ちいいくらいに。
地上に降りてからのウルリッヒの猛攻。脚をストンプさせてヒナタを攻撃する。
大沼:それにしても、銃の描写と言うか……山本貴嗣先生のイラストって、すごく好きなんですよ。緻密だし、かっこいい。『2:R』のマリアなんて、震えたもの!
久保:大沼さんは銃マニアで、打ち上げでモデルガンを持ってくるぐらいなんです(笑)。
大沼:『3』で出てきた垂直二連のダブルバレルの銃が欲しかったんだけど、なかなか売っていなくって。しょうがないから、映画『マッドマックス』の横二連のダブルバレルの似たようなモデルガンを……。縦二連のダブルバレルのモデルガンって、売っていないですよね?
山本貴嗣:売ってないですね。モデルガンでは売ってないですよ。ちなみに、通常版のヒナタのアサルトライフル、タボールってわかります?
大沼:ええーと……はいはい、知っています!
山本貴嗣:イスラエルにある会社が生産しているアサルトライフルです。発泡スチロールでドラムマガジンを再現して、デッサンしていました。
大沼:そうそう、ズキーヤの22口径のデリンジャーも手に入らなくって。しょうがないからノーマルの32口径のデリンジャーをモデルに持ってもらって写真を撮ったけど……。
山本貴嗣:言っていただければ、デリンジャー、お貸ししたのに(笑)。たしかどこかにあったと思う。
大沼:今度のイベントで、声優さんたちに銃を持たせたいので、ぜひ貸してください!
山本貴嗣:探してみます(笑)。そういえば……こんなものがあるんですよ。(山本貴嗣先生がカバンから何かを取り出す)
大沼:ああ、惑星カミカゼだ!!
山本貴嗣:ここから、デッサンを描き始めたんですよ。発泡スチロールで模型を作ってね。すべては、ここから始まったんだなぁ。
WANTEDモンスター“惑星カミカゼ”の模型。
表情や惑星の環なども細かく描かれていた。
田内:そうそう、山本貴嗣先生のデザイン発のアイテムって、じつは多いんです。
山本貴嗣:と言いますと?
田内:ズキーヤの“トライピアス”。あれは山本貴嗣先生が描いたピアスをアイテムにしたものなのです。
山本貴嗣:ああ、そうなの? (笑)。
田内:サーシャが持っているライフルも、ですね。各キャラクターの初期装備は、山本貴嗣先生のデザインからきています。ヒナタが最初に身に付けているボロテクターとか(笑)。
久保:いまだから言えるのですが、初期案のヒナタは赤いTシャツを着ていたんです。その下にプロテクターをつけている格好でした。Tシャツとプロテクターのデータが分かれているから、Tシャツを取ったイラストを宮岡さんに見せてしまったら……「これでいこう」と。
山本貴嗣:そんなことが(笑)。
『4』の開発初期に描かれたヒナタのイラストのひとつ。赤いTシャツと靴がないものが採用された。
久保:設定資料集には、初期デザインのキャラクターも紹介されていますよ。ズキーヤは髪型が違うし、カリンはお団子ヘアのバージョンがありました。
友野:逆に、ウキョウなどはかなり和風な感じですね。陣羽織とわらじだし。
久保:設定資料集のクルマのページで、装甲車に乗っているキャラクターがいるでしょ? 初期に山本貴嗣先生からいただいたキャラクターのひとりで、“仮面の麗人”だったのです。けっきょく、このキャラクターはボツになりましたけど。
山本貴嗣:……ああ、いる! 懐かしい(笑)。
久保:“仮面の麗人”はもったいなかったかもなぁ。
『設定資料集』のクルマ編で掲載されている装甲車。
上に乗っている人物が“仮面の麗人”だった。
山本貴嗣:(『笑うカドルス』最後のページにある奥付のあとがきを見て)門倉先生宛てのファックスですね。1992年当時、まだ門倉先生とお会いしてなかったときのもので。メールとかがなくて、ファックスで連絡をしていたんだよなぁ……。時代を感じますね。
★★★第2回 声優編★★★
じつはギリギリ!? 宇宙ドールの声
久保:今度は『メタルマックス4』(以下、『4』)の声優さんの収録の裏話を聞かせてください。アフレコは丸2ヵ月ぐらいかかりましたから、いろいろあったかと(笑)。
田内:声優さんたちと2ヵ月間いっしょにいると、だんだん他人でない気がしてきて。
久保:最後、卒業式のような雰囲気でさびしかったですね。
大沼:どこの誰だっけ? 最初「収録するのは40キャラぐらいです」って言っていたのは?
久保:プロデューサーの私です(笑)。
大沼:最終的には150キャラ以上……ってありえないでしょう!!
CC山本:見積もりが甘すぎる(笑)。
大沼:150人以上のキャラクターが全員しゃべるんですよ!? 最後のダメ押しで、やっと収録が終わると思った瞬間、「声優の釘宮理恵さんって、まだ使えるかな」と久保さんが。「何で?」と聞いたら「宇宙ドールに声を入れて欲しいのですけど」って。「入るかー!」って叫んじゃいましたよ。……まぁ入れたけどさぁ。
田内:宇宙ドールの収録、すごかったですね。スタジオでずーっと見ていたけど、驚かされました。
これが宇宙ドール。戦闘中に「がんばれ、がんばれ、ハンターくん」
などと応援してくれたりする。
久保:釘宮さんの声って、すごく音圧があるんですよ。ギリギリまででレベル調整してもらいました。
田内:宇宙ドールに応援ボイスを入れよう考えたら、せっかくなので名のある声優さんにしようと。でも、音声の収録がほとんど終わった後にそれが発覚してね。最後に残っているのが釘宮さんしかなかったんです。
大沼:本当はコーラと●●の2役だけ、のはずだったのに(笑)。
田内:じつは、戦闘中に宇宙ドールがしゃべる設定はなかったんです。でも、いざ宇宙ドールが“釘宮理恵さん”と発表された直後、ネット上の反響は大きかった。
友野:かなりの反響でしたね。
田内:それで宇宙ドールがちょっとしゃべるだけじゃダメだな、と思って。じつはぼくの勝手な判断で、戦闘中にしゃべらせてみたんです(笑)。
宮岡:誰にも相談せずに、ですよ。
田内:そうしたら誰も文句を言ってこないので、戦闘中に宇宙ドールがしゃべるシステムをそのまま入れました。いまだから言えるのですが、最初はセリフを言う確率が逆になっていて……宇宙ドールがしゃべる数値が高かったんです。
久保:最終的には?
田内:ちゃんと調整しました(笑)。
CC山本:そういえば開発中、戦闘中に宇宙ドールがしょっちゅうしゃべっていたなぁ。
田内:プログラマーのTさんが釘宮さんの大ファンで、収録を見学しにきたときはすんごくご満悦だったなぁ。満面の笑顔で帰って行きましたよ。
門倉:握手は?
田内:恥ずかしくって、できなかったらしい(笑)。収録終わって引き上げていく釘宮さんを、近くで見送るだけ。それでも、すごくうれしそうでしたけど(笑)。
宮岡:でも、あの音声はTさんの癒しになるだろうな。「がんばれー、がんばれー」や「わたしはいつでも、あなたの味方だからね」など、釘宮さんが演じる宇宙ドールが言ってくれるんだもん(笑)。
久保:彼はプログラマーですから、その気になれば数値をいじって聞きたい放題でしょうしね(笑)。
宮岡:そういえば、シナリオを見て怒った声優さんはいませんでしたか?
大沼:いませんでしたよ。出来の悪い台本だと怒り出す人もけっこういますけど、本当に話がよかったので、みんなノリノリでやってくれました。それはありがたい話です。
かなり大変! 『4』のスタジオ収録
久保:各キャラクターのキャスティングは見事でしたよね。
大沼:ありがとうございますー。疲れが溜まって死にそうになりましたけど。
山本貴嗣:死にそうになった人は、いっぱいいるんじゃないですか?
田内:そうかもね(笑)。今回のキャスティングで言えば、みんなウキョウにびっくりしたと思います。
大沼:ウキョウを演ずるのは、中井和哉さんしかいないと思っていました。かっこいいし。
久保:オリビアの大原さやかさんも、バッチリでしたね。鬼婆も凄みがありました。
大沼:あと、ベルイマン役の若本規夫さん。いろいろな役を演じているだけあって、迫力がある。
『4』でヒナタたちの前に立ちはだかるベルイマン。
声に渋さや鋭さを持つ若本規夫氏ならではの独特の演技に注目。
山本貴嗣:ただ、ベルイマンって、とても強烈なキャラクターじゃないですか。グレイ博士など、ベルイマンに関わるキャラクターを演じる方は大変だったのでは?
大沼:グレイ博士はX-エルを改造したり、メイメイを誘拐するという、けっこうメインストーリーにからむ人物なので、演技が難しかったですね。
田内:声優さんの判断でキャラクターの声の出しかたを変えてくれたので、最終的にはすごくうまくいきました。
久保:でも、グレイ博士の収録は手間取っていていましたね。最初はぜんぜん違うキャラクターのようでしたから。
宮岡:最終的には「オレがやるしかないかも」と思っていた(笑)。
大沼:そんなことをしたら、オレはもっとダメ出しをしたよ。宮岡さんから「オレですけど?」とか言われそうだけど(笑)。
宮岡:声の出しかたって説明しにくいんだよ。「こう話してくれ」と伝えるのが。
大沼:脳内に答えはあるけど、表現しにくいね。
山本貴嗣:それは、絵の指示といっしょじゃないですか。「この雰囲気で」とかですよ。
田内:テキストのみのゲームなら、アドリブは存在しないんです。考え抜いたテキストがそのまま世に出るじゃないですか。でも『4』はボイスが入って、一種の“抑揚”というアドリブができたんです。その影響で、僕らが想定している以上の作品になりました。それはよかったなぁ。
山本貴嗣:それは幸せですね~。
大沼:あとすごかったのは、宮岡さんと田内さんのケンカですよ。「もう、どっちかの意見に決めてよー」といつも思っていた。
宮岡:それは、いつもそうだから(笑)。
田内:打ち合わせなどでも、必ずモメるのは宮岡さんとボク。
大沼:でも、それが楽しかったんですよ。最近、こだわるクライアントはなかなかいないんです。宮岡さんと田内さんは知っていると思うけど、スタジオを使用する時間はいつも押していたんですよ。
宮岡:それも、いつものことだから(笑)。
大沼:ボクはいつも役者の拘束時間やスタジオ代もあるし、「時間内に力技でも収録を終わらせないといけない」という葛藤があったんですよ。でも、宮岡さんと田内さんのこだわりで「これは終わらないな」と。そこで、残り時間が少なくなったら、プチンと切れて「さあー、何時間でもやってヤルぜ」と。すると隣に座っているエンジニアさんが怒り始めるんです。
宮岡:大沼さんとあのエンジニアさんも、いいコンビでしたよね~。
久保:そういえば、宮岡さんと田内さんがとくにこだわっていたのが、最初のサーシャのシーンでしたね。冒頭のシーンの収録だけで2日以上かかりました。
大沼:エンディングのアニメもですね。収録中、「いつ終わるんですか?」と思っていましたよ。たしか、マスターアップの5日前ですよね?
宮岡:最後のサーシャのセリフがなかなか、バチッとキマらなかった。あのひと言のセリフに、彼女のそれまでのすべての想いを乗せたくて。だから思わずグッとくるひと言になるまで、色んなパターンで何度も演技してもらいました。
大沼:あの収録ほど苦労したのは……。18年以上この業界をやっているけど、2番目になるかな。
久保:1番ではないんだ(笑)。
大沼:ほかのゲームだけど、1セリフに40リテイクくらいありましたよ。いちばん重要なシーンだったので、最後声優さんが「もうわからないから、あなたがやってよ!」とパニクっていました(笑)。
『4』の台本を積み重ねて撮影してみました。
改めてみると、これだけで本が何冊かできそうです。
久保:『4』は通常のイベントを含め、全体の台本の厚みがけっこうありましたけど、そのうち、ズキーヤとサーシャはけっこう占めていて……量がすごかったなぁ。
大沼:ズキーヤ役の白石真梨さんの「あーんたたち」も、味になっていましたね。それはいいんだけど……収録が始まってからキャラを増やすなよ(笑)。
久保:まぁまぁ。それでもさ、ソーセージ・インの酒場のマスター、ヌッカにはセリフを入れたかったなぁ~。
田内:バイオパレスでバイオタンクを作ってくれる、タンクレディにもセリフを入れて欲しかった。
大沼:言っていい? ちゃんと予算くれれば、何でもやるから(笑)。
久保:そうそう、ゾンデレラ城のDr.ミンチの助手、イゴールのセリフはギリギリ入れたんだよね。
大沼:最初、イゴールのセリフはとても少なかったんです。イゴールの収録が終わってからから電話がかかってきて「すいません……。あの~、予算はないですが、イゴールのセリフが増えます」と。どういうことだよ!(笑)。
田内:声優さんの演技がよかったですからね。でも、Dr.ミンチの一連のくだりは、いろいろと苦労はありましたが、本当によかった。本来、ゾンデレラ城は予算を取るところではないんですけど、じつはラストダンジョンと同じぐらいのコストがかかっているんです。
宮岡:ゾンデレラ城は、けっこうイベントがあるからね。
友野:ドアを半分開けた状態でイゴールがチラ見しているのが、いい味なんですよ。
宮岡:ああ、ドアが半開きになっていてイゴールが顔をのぞかせるイベントね。
ゾンデレラ城のシナリオや演出は宮岡氏が担当。
当初、Dr.ミンチの助手・イゴールのセリフは少なかった。
CC山本:ボクも気になっていたんですよ、「ドア、半開き?」って。
宮岡:あのシナリオ書いている時に感じたんですよ。そう言えば“半開き”なんて指定をするのは初めてかもしれないな、と。フル3Dだからこそ、表現できる指定でしょう。
田内:ある人が書いたシナリオなんですけど、そこでしか使わないシステムっというのが多かった。それをプログラマーさんに相談すると、「このイベントでしか使わないんですよね?」と、すごくイヤがられたの。
友野:イヤがられて、だいたい開発期間の後半までほおっておかれるパターンですよね。「あとでやります」的な感じで。
宮岡:ひょっとして、この面倒なイベントが消えてなくなるんじゃないか? という期待がプログラマーさんにあったんだろう。
田内:でも、そのイベントでしかない見せかただからこそ、プレイヤーの印象に残る演出になるんでしょうね。
ファンは必見!? 印象に残ったボイスとは
宮岡:そう言えば、ワルバラもけっこう収録に時間がかかったね。
大沼:ワルバラは当初、宮岡さんが「和田アキコさんのようなイメージで」と言ったので、最初役者さんが戸惑っていたんです。ワルバラの語尾が「はぁーん」とか「よホーん」とかなのに、和田アキコさんをイメージするなら「ハッ!」とかじゃないの? って。当日、ワルバラ役の千葉泉さんが「自分のプランを聞いてみてください」と言われて演じたら、それがすんなりと……宮岡さんのOKをもらいましたね。
どこか奇妙なセリフが印象的なワルバラ。戦闘中のセクシーな動きにも注目してほしい。
田内:ワルバラと言えば、初期にバランステストをしたら、2ターンぐらいで倒されてしまって。セリフが6つぐらいあるのに、聞く前に終わったのです。何か忍びなくて、ちょっと強くしたら、宮岡さんに「強すぎる、コレは」と。もっと弱くしろと言われました。
宮岡:いや、ワルバラは田内クンが弱くしても十分強かったよ。もうワルバラのセリフは飽きるほど聞かされました。
久保:マスターアップ前に宮岡さん「これでクリアーできるのかな?」って言っていましたよね。
宮岡:テストプレイで何度戦ってもラスボスを倒せなくて。ワルバラもゴモドも強烈だし。あまりにも倒せないと、そこで心が折れて、プレイするのをやめちゃう理由になるので。
田内:バランス調整は、マスター直前の最後の最後までやっていましたね。逆に弱くしすぎると、それはそれでユーザーの不満になるし。
久保:すごく難しいところですね。そうそう、ワルバラは山本貴嗣先生に描いていただいた「ムジーナ」という名前だったバラ女なんですけど、セクシーな動きも再現されていますよ。
山本貴嗣:ああ、そうですか。ありがとうございます。
CC山本:攻撃方法もすべて設定に忠実に。おもしろい敵に仕上がったと思います。登場するのは、ゲームの中盤かそのちょっと手前くらいですかね。
宮岡:ワルバラは強烈ですよ(笑)。戦いとは別の意味で記憶に残りますね。「よホーん」とか「はぁーん」という奇妙なセリフまわしを何十回と聞くことになるんで。 何か、あの声が脳に焼きついてしまう。
門倉:ゴモドの声も耳に残りますよね。
大沼:あと、ガールフレンドのセリフなども聞いて欲しいですね。苦労したから(笑)。
田内:ソーセージ・インのアビィ、カトール売りのセイラ、トレーダーのラッキーナだね。
友野:最初に登場するアビィは、ちょっとズルイですよね。どうしてもほかのガールフレンドたちより有利(笑)。
久保:アビィとの関係はずーっと続くから。長いですし。
田内:開発中の話ですが、スタッフの中でアビィの“ソーセージ・イン”へ行くのがトラウマになっていたのです。というのも、ソーセージ・インへ行くたびに、アビィがヒナタのもとへ転びながら走って来るイベントが毎回起こったんですよ(笑)。それで泊まるのに時間が掛かるから「アビィのところへ行きたくない」って。
開発中のソーセージ・インの画面写真。
製品版では、トランクルームを管理する人物の左側(パラソルの横)にセーブポイントがある。
ここを冒険の拠点にしているユーザーも多いのでは?
久保:そういえば、最後のほうで、ソーセージ・インのセーブをする場所を外に出したりして、工夫していましたね。
宮岡:あれでずいぶんよくなった。とりあえず、ソーセージ・インに泊まる、泊まらないは別として、あそこへ行ってクルマの整備などをしてセーブをする、という流れができた。
大沼:ちなみに、アビィって未亡人なの?
宮岡:温泉宿の未亡人。テンガロンハットなど、西部劇の格好をしていますけどね。設定上は結婚した当日に夫が亡くなって。未亡人だけど処女なんです。
大沼:ええー!?
宮岡:……と、ソーセージ・インのヌッカの酒場にいる、事情通の男が言っている(笑)。
久保:そういえば、ソーセージ・インのイベントって、けっこう多いですよね。
友野:ソーセージ・インのシナリオは宮岡さんが担当で……。大変でした!
宮岡:でも、みんなが大変だって言うから、整理はしたんですよ。
田内:いつも「選択肢は多くても3つにしてください」とお願いするのに、必ず4択で(笑)。
宮岡:それだけ膨大なシナリオを書いたと。
田内:『3』ベースに『4』のテキストのボリュームを計算していたんですけど、ぜんぜん足らなかったんですよ。それぐらい、テキスト量が多かった。
CC山本:そうだっけ?
田内:『3』が1だとすると、『2:R』は約2倍。『4』は16倍ぐらいですね。
大沼:ユーザー的にはボリュームアップするのはうれしいけど、作るほうはしんどい(笑)。
田内:以前のシリーズと比べて、濃密さがぜんぜん違うものね。
久保:パーティの仲間が違うと、発生するイベントも異なるから。
門倉:いろいろなパターンがあるわけですね。
田内:例えば、カリンが仲間にいる・仲間にいない、X-エルやラロを仲間にする・してないバージョンを試すなどをすると、たぶん一生かかると思いますよ。全部のボイスを聞くなんて、ファンの方には申し訳ないかもしれないけど、大変だと思う。
大沼:2周目、3周目とやり込める要素があるのはうれしいなぁ。
田内:『2:R』をやり込んだ人が「遊びがあるけど、褒美がないじゃないか」と。チャレンジハントを全部クリアーしたのに、何も褒美がないじゃないかって。だから、今回はご褒美だらけですよ(笑)。
大沼:ご褒美があるの!?
田内:チャレンジハントは勲章がもらえるし、ゲームをクリアーするとハードモードやスーパーモード、ゴッドモード……その上もありますから。それらもクリアーすると、それぞれに褒美があるんです。
大沼:ゴッドモードという難易度もあるの!? クリアーできるのかな……。
★★★第3回 ゲームシステム編★★★
愛とこだわりが満載! 戦闘システム秘話
久保:最初の企画では、戦闘をシームレスでやろうとしていましたよね。正直「できるの?」って思っていましたが。
宮岡:当時は、戦車に乗って“自分で大砲を撃つ”というのがやりたかった。敵を見つけてターゲットして、Aボタンで弾を撃つ、というような戦闘をね。
田内:モンスターは全部フィールド上にいて、見えている想定でした。
宮岡:遠くにいる敵がだんだん近づいて……というのが見られるようにしたかった。
田内:その後、マップを作って人などを配置したら「シームレスの戦闘はムリだ」と(笑)。
久保:ハードの表示能力の限界ってことですね。
友野:『メタルマックス』って家庭用のゲームだけど、じつはMMORPG(多人数参加型RPG)っぽいんです。
久保:自由度がかなり高いですからね。
田内:本当はMMORPGを作りたいんですが、そんな予算はないし(笑)。
大沼:あと、『メタルマックス』シリーズをプレイしていてすごいと思うのは、クルマを最強の状態に改造したり、ビジュアルなどにもこだわることなんですよ。でも、なかにはヘンな武器とかもあるじゃないですか。
田内:今回の『4』で言えば……“ヤキトリ砲”とか?
3つのパーツを組み合わせて作る“ヤキトリ砲”。
世界中に散らばる各パーツを探すのも、楽しみのひとつ。
門倉:これは一体……!? と思いましたよ。
大沼:それ、某サイトで噂になっていて。「これが最強だとイヤだな」って。
田内:でも、最強の一角ではある。
宮岡:最強の中で、もっとも手軽で便利なものではあるね。すべての属性をカバーできるし、連射なども可能。
大沼:ええー!?
田内:『メタルサーガ ~鋼の季節~』というニンテンドーDSのソフトがあってね。評判はあまりよくない作品になってしまったけど、企画屋としては魂をこめたアイデアなども入っていたんですよ。オーディン砲とかね。あれは、すごく気に入ったアイデアだった。
宮岡:通称、オデン砲だね(笑)。
田内:それの代わりに作ったのが、今回のヤキトリ砲。同じ作りではないけど、串に食べ物を差すという点は共通している……。
宮岡:それが前はオデンだったと(笑)。
田内:今回はヤキトリに変えたと(笑)。
久保:ヤキトリ天文台にいるのは、ネギマ博士にツクネですからね。
ネギマ博士に“ヤキトリ砲”のパーツを組み合わせてもらう。
パーツの組み合わせ次第で、攻撃力や範囲、属性などが変化する。
田内:そういうネタが、『4』にもいっぱいあるんですよ。ひとつひとつの仕様作るのに、魂をこめるじゃないですか。それがたまに、諸般の事情で変なことになったりするんですけど。まぁもう、何年も経ったから、そろそろ時効かな、と。
門倉:いろいろな意味で、それがうまくまとまったのは久保クンのおかげかな。
田内:久保さんがいたから「我が一生に悔いなし」という感じになれた。久保さんがいなければ、悔いだらけで死んでいましたよ(笑)。
その名の由来は!? ダーマス神殿の謎
友野:今回、宮岡さんとのやり取りは苦労しましたね。例えるなら、僕らは現場でゲームの完成に必要な作業と、宮岡さんの要望を大掃除しているようなものなので。
宮岡:と言うと?
友野:「予定作業はすべて終わりました」と宮岡さんに伝えるじゃないですか。そしたら、宮岡さんから電話がかかってきて「やっぱりアレはああしたい」と。「もうそんな時間ないですよ!」と伝えても、けっきょく作業のやり直しに。
大沼:これから引っ越しをしようとしているのに、家具を買おうとしているような?
宮岡:いやいや、引っ越し前でも「その家具は必要だろ」と思っているだけですよ(笑)。
山本貴嗣:私は現場にぜんぜんタッチしていないから、わかりにくいのですが……。
田内:山本貴嗣先生の立場に置き換えるなら、60ページの描き下ろしと聞いていたのに、明日締切の時点で「70ページにしてください」と宮岡さんに言われたようなものです。
山本貴嗣:ああ、なるほど(笑)。
宮岡:いちおう、「無理かもしれませんけど……」と言っているじゃん(笑)。
田内:宮岡さんがびっちりと書いたテキストを見ると、「これはやらないといけないんだな」って、現場は思うんですよ。
宮岡:それは自分でも思ったよ。「何でいまこのタイミングで、こんなシナリオを書いているんだろう」って。それも、みなさまのおかげでね。何とかならかったものもあるけど……。
門倉:そういえば、ダーマス神殿ですけど、何と言うか……ギリギリじゃないですか!?
田内:いや、あれは、某有名RPGに登場する神殿をもじったわけじゃないんですよ。あのダーマス神殿に住んでいるエライ人が「民衆をみんなダマしている」というところからその名がきているんです。
“ダーマス神殿”はまほう教の本殿。ここにいるダーマスは“大まほうつかい”で、
各地で入手できる“スプーン”にまつわる謎多きイベントが展開する。
久保:ダーマス神殿のスプーンに関するあのイベントですね(笑)。各地でスプーンを取るたびに「ポロロン」と効果音が鳴るんですけど、最初は「何だ?」と思いましたよ。
宮岡:ウチの嫁にもそれは言われました。真顔で「なぜ、“さきわれスプーン”を見つけるとポロロンっと効果音が鳴るの?」って。
久保:最初にその効果音を聞いた時は、謎ですよね~。
門倉:ちょっと衝撃ですね。
田内:そうそう、今回のフィールドはヨーロッパを舞台にしようと思って。各地の名所を“荒廃した世界のワンシーン”として出そうとしたんです。となると、ギリシャの神殿は外せないじゃないですか。パルテノン神殿を出すことは決まっていて、宮岡さんは「映画館にしよう」と言っていたのですが、私が無理やりシナリオを書き変えました(笑)。
宮岡:そのシナリオがアイデア段階じゃなくて完成品として出てきたので、「しょうがない、これで行くか」と。
田内:けっこう苦労したんですよ。
宮岡:それにしても、ダーマス神殿の階段は長いね。神殿の石段を戦車がガーっと上る光景……「なんだこの絵は」と思ったよ(笑)。
田内:途中でジャマなヤツが出てくるしね。
宮岡:ダーマス神殿で1回全滅したことがあったなぁ。あの周辺で出現するWANTEDモンスターの“騎甲サイゴン”からやっと逃げて、ダーマス神殿へたどり着いたと思ったら階段の途中で……「ここで全滅かぁ」と(笑)。
田内:ああ、階段の途中でリモコン反太郎と戦いますからね。反太郎がヒナタたちに言い放つ「死~ぬ~んだ~!」は、ある意味名ゼリフでしたね。
ヒナタたちの前にたびたび現れるリモコン反太郎。
彼が操るモンスターは、どれもかなり手強い。
久保:たしか、そのボイスは収録初日で、時間もかかりましたね。
田内:でも、あのセリフはボイスがついて、デキがグッと上がったなぁ。
宮岡:収録はなかなかうまくいかなかったけど、自分で書いた「死~ぬ~んだ~!」と言うセリフをオレが読んで声優さんに聞いてもらって……。ようやくイメージ通りのセリフになった。けっこう恥ずかしいんですよ、自分で書いたセリフを自分で声に出して人に聴かせるのって。
大沼:収録の初日であんなに苦労して、当時は「これからどうなるんだろ?」と思いましたね。この“こだわりの世界”できちんと収録が終わるのだろうか? と。
田内:ちなみに、『4』はダーマス神殿で特技を変更できるのですが、その組み合わせは自由自在ですからね。
大沼:どういうこと?
田内:『2:R』まではメインとサブジョブがあって特技を覚えるという設定でしたが、『4』は特技を切り替えられるし、ブースターポイントを割り振れるのです。だから、アーチストがハンターやレスラー、メカニックの特技を持ったりと、いろいろな職業のいいとこ取りができるのです。
ダーマス神殿のある場所にある“神のイス”で、覚えている特技の切り換えやレベルアップなどができる。
門倉:以前、「スーパーキャラが作れるからイヤだ」って言ってなかったっけ? いつのまに変えているの(笑)。
田内:ただ、スーパーキャラクターにするには、かなり手間がかかると思うんですよ。その理由は、覚えている特技の中からダーマス神殿のイスで切り替えるシステムだから。
門倉:すごく自由に、というワケではないんだね。
田内:メンバー全員同じ特技を持たせようとするのは可能だと思うけど、かなり時間がかかる(笑)。
宮岡:どういう特技に変更させるべきかを試行錯誤するのもけっこう面倒だよね(笑)。 「この特技は何に切り替えられるんだっけ?」みたいな感じで。使える特技を覚えてから、貯まったブースターポイントを使いたいしね。
田内:いろいろと時間を使うところなんですよ。まぁそれがいちばん楽しい部分でもあるわけで。
宮岡:凝りたいユーザーさんは、どこまででも凝れますよ。
田内:でも、あの特技がないと倒すのがむずかしい敵も……とかもあったり(笑)。それはちょっとやり過ぎたかも!?
かつてない強敵に挑め! ダウンロードコンテンツのWANTEDモンスター
久保:ダウンロードコンテンツ(以下、DLC)ですが、大変でしたね。
宮岡:DLCの数が、ね。膨大。
田内:デバッグも大変で。でも、自分がユーザーだったら何が欲しくなるだろう? と考えると、アレも欲しいしコレも欲しい、と。
友野:数はスゴいですけど、良心的だと思いますよ。DLCをぜんぜん使わなくても、ゲームのプレイには何の支障もないですから。
久保:今回のDLCの冥界エクスプレスの行動パターンって、『3』の時に実現できなかった設定とかも入っていますよね?
『3』の開発当時に山本貴嗣氏が描いた“冥界エクスプレス”のイラスト。
設定が細かく描かれている。
田内:入っています。今回はフル3Dなので、『3』では表現できなかったところも見せられるようになっています。DLCのWANTEDモンスターではないけど、“クラウドゴン”を復活させたくなったのも、そこが大きかったですね。
久保:クラウドゴンと言えば、ダーマス神殿あたりから出現するWANTEDモンスター3匹に囲まれたことがあったなぁ。あの絶望的な演出もすごいですね。
田内:3匹の強敵に囲まれることがあるのって、RPG史上あまりないのでは(笑)。
宮岡:初めてWANTEDモンスター3匹に出くわしたときは感動してね。戦場カメラで3匹を一枚の写真に収めようと、いろいろやってみたんだけど……。どうやっても3匹いっしょに撮れないんだ、これが(笑)。
田内:たぶん無理です。あのWANTEDモンスターが正面に3体並ぶことって、ありえない……はず。
友野:モンスターに前後を挟まれてしまうと、逃げられないし。絶望しますよね、あのWANTEDモンスター軍団が来たときは(笑)。
宮岡:あと、キラ化したWANTEDモンスターもなかなか倒せない。
田内:『メタルマックス』シリーズ初なんです! DLCのWANTEDモンスターに限り、キラ化するのです!
門倉:キラ化って、あの、たまに出てくるキラキラしているモンスターだよね?
大沼:うわー、歯応えありまくり!??
宮岡:WANTEDモンスターでないけど、今回とくに強烈に印象に残ったのはキラ化したキラ化したレッドスワン。戦闘中にHPを約15万回復されましたよ。15万! 延々と激闘を繰り広げていたら、どうでもいいザコキャラクターがふらふらーっと飛んできて、レッドスワンに回復かけて……それが15万。「ああ、もうダメだ。逃げよう」と(笑)。
宮岡氏が苦戦するほどの強敵、レッドスワン。1ターンで撃破できたら、
キミはスゴ腕ハンターかも!?
大沼:状況はよくわからないけど、そのレッドスワンというヤツは、倒せるの?
宮岡:本気で装備を整えれば、1ターンで倒せるらしい。オレは倒せていないけど。
久保:たとえWANTEDモンスターを倒せなくても、全滅したときに表示される“撃破指数”が目安になりますよね。「もう少しレベルを上げましょう」とか。
田内:撃破指数がひと桁台だと、「ぜんぜん別のことをしましょう」といったコメントが表示されますから。
CC山本:そのコメント、ある意味ひどいよね(笑)。
田内:あれは、最高だと思うけどなぁ(笑)。
WANTEDモンスターなど、ボスクラスのモンスターにやられると表示される“撃破指数”。
モンスターにどれぐらいのダメージを与えたかがわかる。
友野:“撃破指数”は、基本的には初心者向けの配慮なんですけど、よく見るとじつはコアなユーザーさんのほうが楽しめる仕組みかもしれません。
宮岡:このゲームに合っている、いいアイデアだと思ったよ。倒せなかったWANTEDモンスターに対して、もっとクルマやヒナタたちを強化してから倒すという目標ができるから。ところで、“撃破指数”誰が思いついたの?
田内:私です。
宮岡:そう言えば、バランス調整の……あの電話で激論を交わしていた時に、ふと「“撃破指数”を入れましたから」とか言っていたなぁ。
田内:ちなみに、DLCのWANTEDモンスターは、これから配信されるものを含めると本編と同じぐらいの数があるんです。それも同じようにネタ作りをしたり、バランス調整をしたり……大変でしたよ。
久保:ほかにも、戦車やキャラクターなども配信しますからね。
田内:そうそう。いちばん最初に自分の中で緻密にバランスとかアイテム配置とかを決めるんです。たとえば「今回のこのアイテムはこうしよう」と。『3』と『2:R』はわりとうまく進んだのですが、『4』はいろいろとひっくり返りましたよ。当初、普通に手に入るつもりでいたアイテムが、ある日突然、久保さんから「これは店舗用特典でぜひ」とか。
CC山本:それはキツイですね(笑)。
田内:その装備は、あるモンスターがドロップするように配置していたんだけど、全部差し替えないといけないハメに……本当にキツかった。
大沼:でも、開発のキャトルコールさんたちは、みんな『メタルマックス』が大好きだから。
CC山本:じつは、そこが弱み(笑)、と言うのは冗談ですけど。実際、どんな無茶な変更があっても、大抵のことはキチンとやってくれるので、開発した三作品とも発売日を守れているんですよ! 奇跡と言っていいのかな(笑)。本当に、現場のスタッフには頭が上がりません!
久保:さて、そろそろお開きの時間が近づいてきたようです。最後にひと言ずつ、ユーザーの皆さまへメッセージをお願いします。
宮岡:『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』は、かなり楽しめるRPGに仕上がったと思います。ぜひ、お手に取っていただいて……買ってくださいっ!
山本貴嗣:作るのが大変だったぶん、僕自身もこれから製品版の『4』を遊ぶのを楽しみにしています。皆さまに喜んでいただけるとうれしいです。
門倉:たぶんシリーズ最高傑作だよね、これ! 音楽でもこれまでにないチャレンジをしています。ぜひ、聴いてみてください。
田内:自分で言うのも何ですけど、『4』は面白いです。少なくとも、シリーズ最高のゲームボリュームであることだけはまちがいありません。トコトン遊びたおしてください!
友野:今どき、こんなに遊べるRPGはめったにないです。RPG好きなら、コレを買わないと損でしょう。
大沼:大勢の声優さんたちが、みーんないい仕事しているので、ぜひ聞いてみてください。あー、オレも早く『4』遊びたいよー!
CC山本:開発、大変でした。でも頑張りました。よろしくお願いします!
久保:それもこれも、これもあれもどれも、みなさまのお力のおかげです! 本日はどうもありがとうございました!!
一同:ありがとうございました!!
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