SPECIAL INTERVIEW
堀井雄二氏✕宮岡寛氏の特別対談が実現!!
歴史(ゲーム)を作った男たち
堀井雄二氏(文中は堀井)
- PROFILE
国民的RPG『ドラゴンクエスト」(以下、『DQ』)の生みの親で、シリーズ作品から 派生作まで手掛けるゲームデザイナー。
角川ゲームス
宮岡寛氏(文中は宮岡)
- PROFILE
『MM』の生みの親として、1作目から開 発を支えるキーマン。最新作となる『MMX』 では、ディレクターとして現場を指揮する。
名作RPGとして長きにわたって輝き続ける『DQ』と『MM』両シリーズのクリエイターによる、豪華な対談が実現!旧知の間柄である堀井氏と宮岡氏が、発売を間近に控えたシリーズ最新作『MMX』の話題を交えつつ、フリーライターとして活動していたころの思い出話から、ゲーム制作に対する話題まで、さまざまな角度から語ってもらった。ふたりのクリエイターが歩んだ軌跡を辿れる、RPGを愛するすべてのゲームファン必読の内容をお届けしよう。
「『MM』の開発に必要なことはすべて堀井さんから教わった」
——まずは、おふたりの出会いについてお聞かせください。
宮岡:僕がフリーライターとして働き始めたその最初の仕事に堀井さんも参加されていたんですよ。そのときに、仕事の現場だった編集プロダクションでお会いしたのが初対面ですね。
堀井:そうだったっけ?あまりよく覚えていないなあ(笑)。いっしょに『ウィザードリイ』をプレイしていたということは、ハッキリと覚えているんだけど。当時は鳥嶋さん(『週刊少年ジヤンプ』の元編集長、鳥嶋和彦氏)といっしょに、ゲームセンターで遊んだりしたよね。
宮岡:いろいろなゲームをプレイして競う、“ゲーム近代五種”みたいなことをやっていましたね。
堀井:そうそう。打ち合わせを早く終わらせて、みんなでゲームセンターに行って。
宮岡:当時はすごく忙しいと思っていたのですが、いまと比べると結構遊んでいましたね。
堀井:そうだね。
宮岡:そのころ、遊びで集まったとき、堀井さんが感熱紙に打ち出したプログラムを持って来られたことがありますよね?
堀井:よく覚えているね!
宮岡:それが僕にとっては、生まれて初めて見たプログラムだったんですよ。
堀井:PCを買ったばっかりでうれしくて、いろいろな人に見せていたんだよね。それから、ファミリーコンピュータが流行り始めたときに宮岡くんを誘って、ゆう帝(堀井氏)、ミヤ王(宮岡氏)、キム皇(木村初氏)の3人で『ファミコン神拳』1)の記事を書くようになりました。そのときは『DQ』を作っていないから、いっしよに仕事をしたのは、この記事が最初だよね?
宮岡:そうですね。
——そこから、宮岡さんは、どのような経緯で初代『DQ』の制作に参加されるようになったのでしょうか?
堀井:『DQ』の制作が決まったときに、僕が誘ったんです。宮岡くんはゲームが好きだし、『ウィザードリィ』もいっしょに遊んでいて、人となりもわかっていたし。
——宮岡さんは堀井さんからそのお誘いがあったとき、どう思われましたか?
宮岡:最初は、「自分にできるのかな」と思いました。堀井さんはプログラミングを理解されていましたけど、僕はただのライターでしたから。でも、ちょうど、『ウィザードリイ』にハマって、「こんなゲームを作ってみたい」と思っていたので、喜んで参加させていただきました。
——ちなみに『DQ』の開発では、宮岡さんはどのような作業を?
堀井:町のマップは僕が描いたんですけど、ダンジョンはほとんど宮岡くんに任せていました。
宮岡:当時は使えるメモリーが少なくて、マップを作るのもひと苦労でしたよ。使えるパターンが4パターンしかなかったんですけど、壁と床だけでそのうちのふたつを使いますし。
一一初代『DQ』ではダンジョンが真つ暗でヽたいまつをもって進むというシステムが取り入れられていましたよね。
宮岡:じっはあれ、苦肉の策なんです。マップは簡単な構造のものしか作れないので、ああいう仕掛けがないと、単調になってしまうんですよ。
堀井:当時はとにかく、少量のメモリーの中に何をどう詰め込むかを工夫していたよね。
宮岡:初代『DQ』はメモリーが64キロバイトでしたからね。いまで言えば、粗い画像1枚くらいの容量ですよ。
堀井:その容量の少なさと戦いながら開発し、一方で『ファミコン神拳』で、『DQ』のことを紹介する記事を書いていました(笑)。RPGのおもしろさを伝えようと思ったんです。それから、宮岡くんとは『DQⅢ』の完成まで、いっしょに開発していたんだよね。
——堀井さんのもとで『DQ」を開発する中で、宮岡さんはゲーム開発に関する技術を学ばれたと思うのですが、『MM」の制作にも活きていることはありますか?
宮岡:すべてですね。たとえば、同じ場所で違うモンスターを出現させる方法がわからなかったのですが、堀井さんに話を聞くと、「あれはっまり、サイコロを振って出現するモンスターを決めているんだよ」と。そのサイコロの振りかたそのものを工夫したり、データを組み合わせて さまざまな結果が生まれるようにする技術など、本当にたくさんのことを教えていただきました。
堀井:当時、僕も『MM』をプレイしたんだけど、戦車の改造とか賞金稼ぎとか、『DQ』にはない要素があっておもしろかった。魔王を倒すという王道ではなくて、アウトロー的感じだったのが、宮岡くんらしいと思いました。
宮岡:ありがとうございます。今日は最新作の『MMX』をご用意しているので、ぜひプレイしてみてください。
『DQ』の生みの親『MM』最新作を大いに遊ぶ
堀井:それでは、さっそく『MMX』をプレイさせていただきますよ。
宮岡:これまでの『MM』は2Dのグラフィックで、初期の『DQ』のような画面構成だったんですが、『MMX』はフル3Dで、リアルサイズに近い大きさで描画しています。
堀井:前にも同じようなサイズ感で作っていたよね?発売されなかったけど。
宮岡:『MMワイルドアイズ』2)ですね(苦笑)。『MMX』では、あのとき発売できなかった仇を討てたかなと思っています。それと、これまでのシリーズ作品では『DQ』と同じように、つぎつぎと町を訪れて、目的地に進んでいくという流れだったのですが、今回はいわゆる町が、ないので、初期の『ウィザードリイ』のように、誰とも会わずに進めていく感じになっています。
堀井:では、戦車をいかに強くするのかというところに、特化している感じなんだ。
宮岡:そうですね。周回プレイで自由気ままに戦車を強化するのが、メインの遊びかたになるようにデザインしています。
堀井:1周目をクリアーするまでの時間は、どのくらいを想定しているの?
宮岡:今回は周回プレイを前提に1周目はコンパクトにまとめましたので、人にもよりますが30時間程度でクリアーできると思います。さらに、2周目からはストーリーがほとんどない“ハンターモード”という、やり込みたい方のためのモードも用意しています。ですから、ふつうにプレイしても5〜60時間くらいは楽しんでいただけるのではないかと。
堀井:戦いはシンボルエンカウント制になっているんだね。
宮岡:ええ。ちなみに、フィールドでは基本的にバトルを始める前に射撃で先制攻撃できます。うまく使えば、バトルをせず、ゲームをスムーズに進められますよ。
堀井:(射撃で敵を倒して)おー!離れたところから敵を攻撃できるのは、戦車ならではな感じで楽しいし、マップを走っている途中でもサクッと倒せるから気持ちいいね。ちなみに、今回もマップに戦車が埋まっているんだっけ?
宮岡:はい。マップのどこかにノーヒントで埋まっていますよ。
堀井:初代『MM』で戦車を見つけたときは、すごくうれしかったからなあ。さらに、その戦車を好きなように改造できるし、改造が好きな人にはたまらないね。
——堀井さんは『MM』の、戦車を軸にした戦闘システムや世界観が気に入っておられると。ところで、横から画面を見ていて思ったのですが、主人公たち以外は本当に人がいませんね。
宮岡:“あまり人のいない世界でゲームシナリオは成立するのか”という難しいテーマに挑戦しています。ですから、世界を救う話ではあるのですが、規模は小さめなんです。
堀井:シナリオは宮岡くんが書いているの?
宮岡:はい。でも、キャラクターが多くないので、分量もそんなに多くはありません。人類が絶滅寸前と言う世界観の中で、堀井さんがやらなさそうなところをやっています(笑)。
RPGの巨匠であるふたりのゲーム制作に対する姿勢とは
——2016年には『DQ』が30周年、『MM』が25周年を迎えました。両シリーズとも長く続いていますが、振り返ってみていかがですか?
堀井:どんなに大きなヒットでも、だいたい10年で終わると言われているので、よく30年も続いたなと思います。
宮岡:『DQII』のころは、堀井さんに「ゲーム開発もいつまでできるかわからないからね」と言われていましたが、もう30年ですからね(笑)。
堀井:そのときは、まさか30年も続くとは思っていなかったから。だって、初代の開発期間が数カ月で、2作目が半年、3作目が1年くらいで、1年に1作品のペースを3年間続けたのですよ。
——たしかに、3作目まではかなりのハイペースで発売されていましたよね。
堀井:そんな中、3作目の発売後に、大ヒットしたから続編を作ってほしいと言われて4、5、6作目と作り続けていたら、10年経っていて。そのころには、「ずっと続けられるかな」と思えるようになりました(笑)。
宮岡:『DQ』はずっと走り続けていますからね。3作目のときは本当にすごかったんです。ちょうど発売日の前日の夜、堀井さんの事務所にふたりでいたので、ゲーム販売店の行列を見に行ったのですけど、テレビで見ていた通りの行列があって。「本当に行列ができてるよー!!」と言いながら、ふたりで歩きましたよね。
——『DQⅢ』は社会現象になりましたから。それぞれ、長く愛される人気シリーズでRPGを発展させてこられたおふたりですが、RPGの制作で大事にしているポイントはありますか?
堀井:僕は、わかりやすさとワクワクできるかどうかを重視して、何をすればいいのかわからないという状況にならないように、意識しながらゲームを作っています。ゲーム内でやるべきことがわかっていれば、コツコツとプレイしてもらえるので、そこにいろいろな仕掛けを配置して、楽しんでもらうという感じですね。
宮岡:『DQⅡ』のサマルトリアの王子は、まさにその堀井節ですよね。苦労してようやく見っけたら、プレイヤーに「いやーさがしましたよ」と言ってくるという。思わず「こっちのセリフだよ!」と言い返したくなりましたよ。
堀井:初代のラストで「せかいのはんぶんをおまえにやろう」と言われて「はい」と答えると、本当に世界の半分がもらえちゃうとかね。僕はもともといたずら好きなので、どういうことをすればプレイヤーに驚いてもらえるかを考えながら、開発していました。
——そういう遊び心が隠されていると、楽しいですよね。宮岡さんが意識されているポイントは?
宮岡:僕は前頭葉に訴えかけるようなゲームを作りたいと思っています。ふだんゲームをプレイするときはくつろいだ姿勢だと思いますが、前のめりになってプレイしてほしいんですよ。
堀井:“脳汁が出る”的な?
宮岡:はい(笑)。そうなってほしいですね。
堀井:宮岡くんは僕よりもゲーマーだし、マニアックなことを思いつくから、そういうゲームを作るのは得意かもね。
宮岡:マニアックすぎるかもしれませんけどね。『MM』のファンの方から、「俺は好きなんだけど、人には勧められないかな」ということをよく言われてしまうので(笑)。
堀井:でも、『MM』は戦車というモチーフをうまくRPGのシステムの中に盛り込んでいると思うよ。いちばんすごいなと感じたのが、戦車に乗っているときと、乗っていないときのバトルのバランス。絶妙に調整できている。
——そんな『MM』シリーズの最新作、『MMX』の発売を待つファンにひと言お願いします。
宮岡:ナンバリングではない新しい『MM』の始まりということで、ぜひプレイして、どう感じたか教えてただければと思います。
堀井:僕からも、いちプレイヤーとして言わせてもらうと、『MM』シリーズは戦車を強化するというシステムがおもしろくて好きだったので、楽しみにしています。この作品でまた、『MM』シリーズが盛り上がってほしいですね。
※本記事では『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』を『DQⅡ』、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』を『DQⅢ』と表記しています。
初代『MM』のキャッチコピー:『DQ』が大ヒットした後に発売された、『MM』。キャッチコピーに掲げた『竜退治はもう飽きた」という印象的な文言は、いまも知られているが、当時の宮岡氏は「堀井さんに申し訳が立たない」と、このキャッチコピーに反対した。だが、代案が見つからず、けっきょく使われることになったのだそうだ。
「堀井さんにはゲームに関してたくさんのことを教えていただきました」(宮岡氏)
「ゲームをプレイしていて意表を突かれると楽しいと思うんです」(堀井氏)
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