1作目から今年で23年。ファミコンで登場した「人と戦車のRPG」は、戦車を使った独特の戦略性の世界観で多くのファンに愛され続けている。シリーズの歩みを振り返るにあたり、『メタルマックス』の生みの親である宮岡寛氏と田内智樹氏、そして『3』から関わられた久保武史氏に話をうかがった。
Interview=塩田信之(フリーライター)、船越崇志(STUDIO・M)、ジストリアス(フリーライター)、山本悠作(編集部)
宮岡寛(Hiroshi Miyaoka)
初期『ドラクエ』の制作者のひとりにして、『メタルマックス』シリーズの生みの親。有限会社クレアテックの代取締役として、ほかにも『ピキーニャ!』『天空のレストラン』など独創的なタイトルを次々と世に送り出した。
田内智樹(Tomoki Tauchi)
フリーランスのゲームクリエイター。『メタルマックス』1作目からプログラマーとして参加し、以降のシリーズにかかわる。『3』以降からはディレクターとして『メタルマックス』シリーズを精力的にリリースする。
久保武史(Takeshi Kubo)
株式会社KADOKAWA エンターブレイン ブランドカンパニー メタルマックス開発室室長。シリーズ全作を知り尽くし、『3』復活のキーマンとなったプロデューサー。本インタビューでは主に『4』について語っていただいた。
——まずは『メタルマックス』シリーズの制作において影響を受けた作品などありましたらお聞かせください。
宮岡:映画では「バルジ大作戦」1)。ドィツ軍が戦車をためて連合国軍に対して反抗するけど途中で燃料が尽きて、高性能な戦車もただの鉄の塊になり、ドィツ軍も負けてしまう。子どもの頃に見たんですけど、「弾がなければただのゴミ」というところに、ロマンを抱いたのは鮮烈に覚えています。「戦車とは何か」という点でも。
——「大破壊後の荒廃した世界」という発想はどこから生まれたものでしようか?
宮岡:50年代のアメリカでSF黄金時代というのがあったのですが、その頃つて米ソ冷戦とかぷるんですよ。それで破滅ものの名作が山ほどあって、その辺からですね。ちょうど「北斗の拳」もはやっていたこともあって、破滅の世界というものが「あー、アレね」で通じる世の中でもありましたので。
——「北斗の拳」のモチーフとされる「マッドマックス」2)はいかがですか?
宮岡:「マッドマックス」は僕からすると「破滅してないじゃん、ただのオーストラリアじゃん」って思ったんですよ。警察が緩くなってるだけで、あまり燃料の話も出てこないし、人も普通に生活している。予算のこともあったんでしょうけど、SFの破滅テーマとしては甘いなと。
——SFの破滅テーマで印象深い作品は?
宮岡:一番強烈だったのは「渚にて」3)。大したドラマもなく、ただただ人が死んでいく。映画を見て、それから原作を読んでみたいなと思いましたね。それとロジャー・ゼラズニイ4)の「地獄のハイウェイ」5)、あれはちょっと影響受けたかもしれません。あと「宇宙兵ブルース」6)は結構ふざけてて、テイストとしてはかなり『メタルマックス』に近いです。
——『メタルマックス』は西部劇の雰囲気も強いですね。
宮岡:西部劇も好きな作品がいっぱいあって困りますね。僕が子どもの頃ってテレビでたくさん西部劇やってたんですよ。ほとんどがジュリアーノ・ジェンマ7)とかフランコ・ネロ8)が出てる映画だったんですけど、それを飽きるほど見せられていたというか。作品名などを意雜して観るようになったのは大人になってからですね。エンニオ・モリコーネ9)の音楽が好きで曲は知ってるけど、どの映画かと言われるとわからない。今はネットというものができて検索しやすくなったけど、僕の若い頃は資料の集めようがなかった。
——SF作品は、山本貴嗣10)さんの影響で読まれたと聞きますが。
宮岡:彼と友達になつたのは中学生ぐらいの頃ですね。強烈なSFアニメでして、その頃に彼に影響されてSFに引っ張り込まれた感じです。僕らが育つた頃はamazonとかがなくて、電車で近くの都会まで行って、そこの古本屋に行くと昔の「S-Fマガジン」11)のバックナンバーが置いてあったりしたんですよ。毎週のように二人で、持ってない古本を買いあさつてました。
——その頃から、物づくりの意識が?
宮岡:ええ。二人の合作で小説やマンガを作りました.。マンガはブルース・リーのパロディだったかな?今でもYouTubeとかで熱心なファンがフィルムめいたものを作つて上げるじゃないですか。ああいうのを僕たちもやってました。飛び蹴りやつてそれを写真に撮つて、「結構似てるじゃん」つて(笑)。
——エンターテイメント全般か好きて、その中でもSFが好きだったんですね。
宮岡:そうですね。まあ、SFはまねようと思つてもまねできないからね。合作の小説だと超能力もののSFは書きました。未来を舞台にスパイ同士が戦う話です。
——その頃から「男のロマン」的なものを意識されてましたか?
宮岡:まだ子どもでしたからね。自分が好きなものを自分で作る、見たものをまねているだけのレべルだったと思いますょ。
——当時の攻略本12)では当初『メタルマックス』がボードゲームだったとありますが、誕生の経緯についてお聞かせください。
宮岡:そもそも『メタルマックス』じゃなかったです。データイーストさんから何かゲームを作ってくれって言ゎれて、最初は予算もかけずに「ボードゲームかな」「ちょっと売れるぐらいでいいかな」って感じで。それがどんどん大きくなつていつの間にかRPGに。で、やはり『ドラクエ』というものがあつたので、それといかに違うものにするかと考えました。フアンタジーでなくSFにしましたし、魔法もナシにしょうと。
——田内さんはプログラマーとして『メタルマックス』にはいつ頃から参加されましたか?
田内:最初からですね。課長の机の上に5ページぐらいの企画書が置いてあつて、「田内が担当になれ」と言われてからは、企画会議に参加しながらゲーム制作をすることに。『メタルマックス』のウインドウデザインなんかは私がやら甘ていただきました。企画書では『ドラクエ』からの流れで「しゅほう」「ふくほう」とか全部ひらがなだったんですけど、当時素人ながら「主砲をひらがなはないだろう」と。それでレイアウトに漢字を使つたら「いいんじゃないの」って。
——『メタルマックス』の制作で、当時の意気込みみたいなのはありましたか?
田内:この業界に入つた目的がRPG作ることなので、いきり立ってましたね(笑)。
——制作体制としてはハードでしたか?
田内:週に数回しか家に帰れなかつたから、はハードだったんでしょうけども、そうは感じませんでしたね。ただ私は『ドラクエ』に影響を受けてこの世界へ入つてきて、宮岡さんも「ミヤ王」13)という名前で知つてましたので、最初はもうド緊張でした。
——プロジェクトに参加されるにあたって、どのような工程を担当されましたか?
田内:企画書をプログラムに落とすために必要な、仕様書への落とし込みですね。私が担当したのはウインドウデザインのほかに、コマンドフローやお店のフロー、戦鬪回りのロジックなどいわゆるUI、インターフェイスジックが直接からむ部分を私が担当しました。もうひとり同期がいたんですけど、その人はマップをスクロールして表示させたり、命令が来たらウィンドウに表示するといった描画部分などで、基本その二人でずっとやってました。
——今ではシリーズのシナリオも担当されてますが、いつ頃からでしょうか?
田内:『メタルマックス:ワイルドアイズ』14)からですね。スーパーファミコン時代まではずつとプログラムでした。『メタルマックス3』からはデイレクターなんて肩書きもつきましたが「どんな仕事?」つて聞かれると困るんです(笑)。ほとんどのことをやっているので、それをまとめて「デイレクター」と呼んでいるだけで。
——田内さんは「スタートレック」が好きと語られていましたが、ほかに作品に影響されるような趣味はございますか?
田内:小説よりは映画を見るほうが好きですね。それもSFやアクション。映画以外なら海外ドラマだと有名どころは観てますし、今も日本でやつているドラマなら7割ぐらいは観てますよ。特に事件ものが好きです。
——『メタルマックス』の制作にあたつて、影響を受けた作品はございますか?
田内:影響というか、だいぷ使わせていただいてます(笑)。『メタルマックス』やつてると「この話つてあれだょね」って思われるかもしれませんが、たぶんそれです(笑)。
——シリーズで思い入れの深い作品について教えてください。
宮岡:作るのが大変だったのは一作目。感動したのは『メタルマックス3』(以下、『3』)だね。商標権とかいろいろあつたけど『メタルマックス』が復活できて良かつたと。『メタルマックス2」(以下、『2』)は「やつと売れた」って嬉しかったし。
田内:私は『3』です。ドラムカン(主人公)のストーリーが大好きで。たぶんストーリーやプロットを決めるのに、シリーズでー番時間をかけてるんじゃないですかね。
宮岡:『3』は制作が決まるかどうか時間があったから、ストーリーもいろいろこねくり回せた。『メタルマックス4:月光のディーヴァ』(以下、『4』)も結構大変だったょね。
田内:『4』は決まる前に、走つちやつたじゃないですか(笑)。
——特にストーリーとして思い入れのある部分はございますか?
宮岡:『3』の場合は、プロデューサーの久保さんも交えて企画会議をしました。僕らつて「達成しなきやいけない条件」を理論的に出すんですよ。「今までと違う目立つ主人公にしよう」とか「初心者でも遊べるバランスにしなきや」とか。それでいろいろ考えた結果「主人公が不死身」になって、不死身の設定を考えているうちにああいう話になりました。ストーリーだけだと、ゲームとして必ずしも面白くなかつたりする場合もあるんだけど、そこがうまくハマったなと。
田内:ドラムカンのキャラが立つてましたよね。『メタル』の主人公ってプレイヤーの分身だったりするので、どちらかというと立たせないようにするんですよ。シリーズだとドラムカンは例外的に半分プレイヤー丨じゃなくて、ちようど良いバランスだったのかなと。
——ドラムカンがお気に入りなんですね。
田内:いや、実は私のお気に入りはラッキーナです。『3』で宮岡さんが書く予定だったシナリオを私が書いたんですけど、それがムチャクチャ(笑)。でもユーザーから意外に受けが良かつたので、『メタルマックス2:リローデッド』(以下、『2R』)で同じプロットで結末変えて同じことやれないかなと思つて入れて、その受けがまた良かった。ネタがなければ終わりですが、『4』の時はもつとやれるなと思つて書いて。自分の書くシナリオって悪役以外は好きな人物像で埋まつてて、ラッキーナも女性像として大嫌い。ユーザーさんもラッキーナは大概嫌いですが、『4』の最後で全部ひつくり返るのが魅力かと。
——宮岡様の思い入れのあるキャラは?
宮岡:每回思いを入れて作ってますが、やっぱりレッドウルフですね。自分で書いてて言うのも何ですが、あれは良いキャラだったと思います。自分のロールプレイングゲームの作法がよくわかったというか。やっぱり僕は『ドラクエ』流の人間だから、『FF』みたいにキャラがはっきりしてしやべるって感じじゃなぃ。かといつて話がなくていいのかというとそれも違う、それでユーザーを引っ張っていって泣かせるという点だと、「他人の生きざまを目撃する」ということ。自分の作るRPGに一番ハマる形かなと、レッドウルフを書いてつかめたと思います。
——やはり『ドラクエ』と『メタルマックス』で手法は変わりましたか?
宮岡:基本的に私も堀井雄二15)流なので流れは大体同じですね。でも趣味は違うんですよ。堀井さんはわりと過去と現在とかの時系列をからめるのが好きなんだけど、僕はそうじゃない。よくドラマなんかだと殺しあう二人が実は仲が良くて、昔一緒に遊んで目をキラキラさせながら「友達だよ」なんて言っていたとか、そういうふうに物語作る人が多いじゃないですか。確かに人は記憶で生きているから、それがグッとくるのもわかるけど、僕はそうじゃないものを作りたくて『メタルマックス』が生まれた。「殺伐とした世界」とよく言われるのは、できるかぎりそういう部分を排除した結果なのかもしれません。
——確かに人間関係がドライですね。
宮岡:『ドラクエ』とは違うという点ですけど、今となつてみればそんなにこだわらなくてもょかったかな、という気もしますね(笑)。それでも当時は100万本売れる気で作ってましたから。
——そういった意気込みからか、桝田省治16)さんが「竜退治はもう飽きた」17)というキャッチコビーを考案されましたね。
宮岡:僕は止めたんですよ。堀井さんに怒られるかなと思って(笑)。僕個人はロープレ大好きだから、別に竜退治も飽きてませんでしたし(笑)。でも「いいじゃん、面白そうじゃん」って、桝田さんのノリで。
——田内さんはご自身で作られたキャラでお気に入りは?
田内:『4』のX‐エルですね。股定から何まで全部自分の趣味で書いたので。プロレスが好きなんですょ。特に三沢光晴18)が全日本プロレスにいた頃。
——確かにゲームの職業で「レスラー」ってあまり闉かないですょね。
田内:最初は「スモウレスラー」だったんですよ(笑)。日本のお相撲さん的ノリだったんですけど、特技とか決めていると「これはスモウレスラーじゃないだろ」と。それから「レスラー」になつて格好もプロレスラーに落ち着きました。台風チョッブなんかはまんま小橋建太19)で、エルボーが入つてるのも三沢が好きだからです。あと『4』の「ザ・リング」も私の趣味です。
——X‐エルで、特に「燃えた」部分ですと?
田内:ドラムカンの設定が好きだったんで、セルフパ口デイがすごい楽しかったです。あと『3』の女性レスラーのデザインがあまり好きじゃなかったんですょ。ほかに女性キャラも多くて、ムキムキキャラでいいんじゃないと決まりましたが、もつと女性っぽくしたかった。アメリカのディーヴァ20)のょうなレースクイーン的タイブ、そつちを推したんですけどね。衣装もハイレグにして女子ブ口風に。覆面レスラーは前々からやりたかったネタで、しかもWANTEDモンスターだから顔を隠すのにもちょうどいいだろうと。
——女性キャラクターで好みのタイプについてお聞かせください。
宮岡:自分で一番グッと来たのは、『2』のマリリン。最後に「もっと愛について知りたかった」みたいなのを言うじゃないですか、書いてて涙がポロッと出たね。そういう意味では『4』のサーシャも、世代機に対膝したマリリンなのかなと。「俺つてこういう話好きなんだな」としみじみ思つた。
「ターミネーター」なんかでも「ロボットに自我が芽生えるのか」という話があるじゃないですか。プログラムで主人公を守る。『4』のサーシャも「そう命令されてる」つて自分で言うんですけど、それが実際どうなのかと。ブラックボックスとして人間側からは見えないですし。話の根幹としてあえて見せないですね。べタな話だと「機械に心が芽生えて」みたいにしちやいそうなところを、ギリギリのところで踏みとどまつています。
——『1』にも「マリリン」というキャラクターが登場しましたが、関連性については?
田内:同一人物かと言われると難しいですね。このキャラクターにマリリンつて付けたら、ユーザーが喜ぶだろうなつて付けたりしてるんで。『3』のアナウンスキャラとか。『4』でもウンガウンガに、アンドロィドに恋をする男が出てきますが、そのアンドロィドの名前も最初マリリンでしたからね。
——シリーズを見ていると、男を裏切る女が好きなのかなと思いました。
宮岡:遊ばれてみたいという願望は微妙にあります。よく言う「燃えるような恋がしたい」願望に近いかも。現実でこういう目には遭いたくないけど、ゲームの中なら体験してみたい。昔からやりたかったことのひとつです。
——田内さんの好みの女性キャラは?
田内:『4』でいうならセイラ。純粋無垢で清楚、性格も良い。でも実際付き合うのはヵリンのようなタイプでしようね。セイラのような子はたぶん永遠の理想像として、決して告白もしたりしないんですよ。実際は傍にいて楽しくて、最終的によく付き合う子はカリンみたいな。だからカリンみたいな子がシナリオ書きやすいんですよ。何となく心情がわかるから。セイラまでいくと、本当は何を考えているかわからない(笑)。だから上っ面だけのキャラ、「こういう子いるよねー」レペルで終わったりするんです。
宮岡:良い子は書きにくいんだよね。
——「戦車でバンバン」や「涙の7mm機関砲」などのユニークな曲名を名付けたのは?
宮岡:私です。門倉聡21)さんからは曲番号で上がってくるんです。それで「ダンジョン1」とか書かれた曲をダンジョン以外で使っちやうとワケがわからなくなるから曲名をつけてます。
——「うろつきポリタン」などのユニークなモンスターデザインは、宮岡さんと山本さんのどちらの案から生まれているのでしょうか?
宮岡:両方です。僕がふざけた絵コンテを渡すと、彼がもっとふざけてくれる。
——山本さんが描くキャラというと、『2』のマリアをはじめとした強い女性像が印象的ですが、特に意識されているのでしょうか。
宮岡:意識があるとすれば、この世界では親がもう死んでいて、その流れですかね。
田内:ほとんどの子がみなし子、それで主人公がハンターなので、それ以外のキャラを見立てるんですよ。主人公が男だから、もうひとり立つキャラとなると女がいい。それでメ力ニックかソルジャーで言われたらソルジャー、その女ソルジャーが主人公にかかわるとすれば、たぶん主人公のほうが年下だからそういうかかわりになるキャラで、マリアやサ丨シヤだったりするんだと思います。
『3』でコーラを助けたカスミさんもほぼ同じだと思います。あの荒野をひとりで立ちまわれる以上は猛者なんだろうなと。コーラが転がり込む場所としては、ピチピチした男の場所だとおかしくなる。それよりはそんな対象にならない年老いたおばさんかなと。理論的な流れから、お母さん的キャラに落ち着きやすいんじゃないでしようか。
——未発売に終わつたタイトルとして、プレイステーションで作られていたという『メタルマックス3』は、現在の『3』とは別ものだったのでしょうか?
田内:別ものですね。あれは面白そうでした。この前資料を見たら「川を挟んで戦闘する」「川に流木が流れてくる」とかムチャクチャやろうとしてたなあと(笑)。あと「トロッコに乗って進みながら戦闘シーン」とか、もし作ってても完成してないだろうなあってのがいっぱい書いてましたよ(笑)。
宮岡:あの時は移動しながら戦う、つていうのをやろうとしてたね。
田内:戦闘中にいろんなものを動かそうとか、山姥に追いかけられながら戦うとか。あれを『4』作ったチームに持つていつたら「マジですか?」って言われると思う(笑)。
——実際に制作までにはいかなかった?
宮岡:そうですね。あの頃ってゲームハードの中で誰が勝つかわからなかったんです。任天堂が負けるのか、プレステーションがどこまでいくのか、ハツキリするまでダラダラ企画してようと。
——もうひとつ、ドリームキャスト用に開発されていた『メタルマックス:ワイルドアイズ』(以下、『WE』)は恋愛ストーリーだったとお聞きしましたが、当時のプロットなどを教えてください。
宮岡:まだあの企画、完全にあきらめたわけじゃないんで、プロットは説明しづらいですね(笑)。あの頃の僕の中には、ゲームのストーリーも、ハリウッド映画の脚本みたいに優秀な企画屋を集めて会議でプロットを決めるべきだという思いがあって、けつこう大所帯だったんですょ、シナリオ部門は。都内のホテルの会議室をまる一日ひと晚借りきつて、徹夜でシナリオ会議やつたりもしました。そこにものすごくお金と労力をかけた。ところが、当初想定していたストーリーが壮大過ぎて、開発途中に一度、話を半分くらいに削らざるを得なくなつて。
田内:ストーリーと一緒に、マッブなんかもごっそりと。大モメにもめましたね、あの時は。10%削るのだって大変なのに、ほぼ半分捨てなきやならないわけだから。マッブを削ると、WANTEDモンスターの出現場所とか、戦車の入手場所とかが足りなくなるし、想定していたモンスターの配置場所が大幅にズレたりして、もういろんなことがめちやめ,ちやになるわけですょ。そのつじつまを合わせるのは本当に大変でした。
宮岡:敵に追われて、ほかの仲間ともはぐれてしまつた主人公とヒロインが、冬山の洞窟で裸になつて抱きしめあつて暧をとるシーンとか、いいシーンだったょね。あれも削つたんたつけ?
田内:今なら堂々と見せられますよね。Z指定になっちやうかもしれないけど。
——『ワィルドアイズ』の前の仮題が、『ハートオプゴールド』だったそうですね。
宮岡:元ネタはニール・ヤング22)という歌手の曲の名前です。ヒットしたのは僕が中学生の頃だったかな。名曲ですよ。
田内:それとヒロインの名前とを引っかけたタイトルだったんです。
——『WE』の闋発状況はどこまで?
宮岡:7割ぐらいかな。ただデバッグを始めたらそこから長いので、α版ってところですかね。ゲームシステムで障害物というのを想定していて、主人公の戦車も降りると障害物になるんです。今は降りたら判定がなくなるじゃないですか。でもこのゲームだと戦場に残って、障害物として戦車を使って自分たちは山なりの軌道で敵を攻撃するとか、ソルジャーが移動攻撃の能力を持っていれば、戦車から出て撃って引っ込むとか。あと戦場にがれきが残っていたらそこに隠れられるけど、がれきにもHPがあって、攻擊されると壊れて、だんだん逃げ場がなくなるみたいな。
田内:敵も味方も、一切ワープ移動せずに歩いてましたね。今だと瞬間移動して攻擊、また戻ったりしますが、『WE』だと殴りに行って、振り向いて戻ってくる(笑)。敵のネズミの大群とか動きがかわいいんですよ。
宮岡:変なタイミングで擊たれるんだよね。元の位置に戻ってる途中とか。マップは一切ローディングなしで走ろうとしてました。マッブの端から端まで移動するのに8分とかかかって、それであまりにも遠いから物が見つけられない。だから主だった場所には衛星からビームを当てられるようにして、どんな場所でもビームを目指して行けるようになるけど、見えてから3分ぐらいかかる(笑)。
——開発中にスタッフが『EverQuest』23)にハマったとお聞きしましたが。
宮岡:会社で『EverQuest』をやらない人たちからは総スカン(笑)。一回女子社員に怒鳴られたもんね。「いいかげんにしろ!」って。
田内:やっていたのはほぼ男性社員でした。大体みんな終電で帰るんで、0時からおもむろにログインし始めて(笑)。ちょうど6人ぐらい、1パーティー組めるぐらいでやつてて、朝の6〜7時ぐらいまで遊んでました。
——『WE』に『EverQuest』の影響はございましたか?
宮岡:『WE』が先だったので、あまり意識してなかつたですね。僕の頭の中にはシームレスで世界中を走るというのは、達成しなきやいけないことであったんですけど、『EverQuest』を遊んでいると、何の区切りもない場所でいきなりローディングが始まつたりする。でも景色が変わるならそれでもいいかと。無理してシームレスにこだわる必要もなかったかなと。
田内:『EverQuest』ではいつまでたつても追いつかない場所にいるんですよね、コンピューターのキャラつて。
宮岡:メモリが増えて処理が速くなって、いろいろできるようになっても、読み込むものも増えるから、結局同じくらい時間がかかつている。その繰り返しなんですよね。
——『WE』から『3』や『4』に再利用されたシナリオはありますか?
田内:ないです。キャラ設定では、『WE』で似たようなものがあったな、使うかどうかはさておき同じ名前にしておくかとか、あとザコモンスターやWANTEDも、考えていたら『WE』の力ミカゼクイーンやメカマンタ良かったね、あれ使いませんか?とかそういう感じでの再利用はありました。
——『WE』も門倉さんが作曲をされていたとお聞きしましたが、そこで作られた楽曲が後で使われたりとかは?
宮岡:ありますよ。ハッキリ言いづらいところはあるんですけど、門倉さんが上げてきた曲で「これ『WE』じゃん!」というのは。あの時は音楽にお金をかけたので、門倉さんとしても、捨てちやうのはもったいないというのはあつたと思いますよ。曲調はアンビエントというか、モヤモヤしていたものがだんだん曲になつていく。それも『EverQuest』みたいな感じですね。いつもはハッキリとした曲じゃないんだけど、敵が近づいてくるといつの間にか緊迫した音楽が流れている。接近と連動しているんですね。
——キャラボイスなどを入れる予定は?
田内:Cユニットだけしやべつてました。「自走不能デス!」とか。
——今の時代も表現上の規制が厳しいと思いますが、『メタルマックス』では死体、浮浪者、薬物など、危険な描写も多いですね。
宮岡:『2』の時、いきなり任天堂から苦情が来て大変だったよね。
田内:オープニングでテッド・ブロイラーに町が破壊されて死体が散乱するんだけど、真っ黒焦げだったんですよ。最初に任天堂にROMチェックしてもらった時は、そのデ—タが入ってなくて、その後でマスターを提出したら「黒焦げの表現はダメ」って怒られた。それで今の製品版の表現になりました。ただ、儀らはそんな気にしてないですよね?
宮岡:これも『ドラク工』に対するアンチテ丨ゼみたいなもので、ファンタジーはきれいに、夢を語ったりするじゃないですか。でもゴミ捨て場にはゴミがあるし、人が死ねば死体になる。それを隠すのはどうなのか?今の規制とかそうじゃないですか。醜いもの、危険なもの、汚いものからできるだけ子どもを遠ざけようとしてるけど、それが子どものためなのか?という気持ちはありますよね。だから「クソ野郎」とか「死ね」とかの罵倒も意図的に使ってます。子どもがガラの悪い子とケンカになったとき、ビビゃって何もできないというのはかわいそう。駡倒されたら罵倒し返すぐらいの士気はあつたほうがいいんじゃないかと思うんです。
——『メタルマックス』には「いっぱつや」や「夕ンスゴン」などユニークなセンスもございました。ああいうギャグセンスはどなたから生み出されたものでしょうか?
田内:ネーミングはほぼ宫岡さんですね。
宮岡:それこそ「宇宙兵ブルース」みたいなものです。僕はコメディが大好きなんで、人を笑わせたい。それと残酷なもの、恐怖と笑いってすごい近いんですよ。ほかにも美と醜みたいな。良いところだけ分離しようとするんじゃなくて、両方見せたら真ん中から何か出るんじゃないかと。
田内:モヒカンスラッガーで殺されるとか。宮岡ユーザーさんから問い合わせありましたからね。「ここは泣くシーンですか?笑うシーンですか?」つて。両方です(笑)。
——『メタルマックス』はシナリオ的に不可逆選択肢が多いと思います。あそこで会つた人が死んでいるみたいな、過去に戻れない無常感もシリーズの魅力かと。
宮岡:どの選択肢を選んでもすべてが丸くおさまつちやうなら、選択肢そのものの意味がなくなりますからね。理想は、一瞬はつきりと失敗を味わうんだけども、後で取り戻せるようなシナリオなのですが、それつてゲームで実現するのはとても難しいんですよ。
田内:『3』の時はシエルタでカトールを売つている女の子がいて、買ってあげないとその家族がいなくなる。それはシエルタという町が貧富の差が激しい町で、貧乏の表現として書いた。それがやりすぎたのかわからないですけど、貧富の表現以上に兄弟が死ぬというところにプレイヤーが衝擊を受けて、ゲーム的にトラウマになつた。
宮岡:鬱展開ってやつだね。
田内:そんなつもりじゃなかつたんだけど、そうとられるシーンがあるんで、以降の作品ではだいぶ気をつけてますね。
——あと性的表現ですが、愛人やガールフレンドなどの要素は、どのような狙いで?
宮岡:大ざっぱな考えですが人間って五欲があって、中でも性欲は人間の欲求で一番強く、それにまつわることも興味を引きますから。そういう意味では自然ですね。
——男のロマンを突き詰めていくと、失礼な言い方ですが「男尊女卑」的なものにたどり着いてしまうかもしれません。それを避ける意識はございますか?シリーズでは強い女性というのがよく見られる気がしますが。
宮岡:差別的にならないよう気をつけてます。女が強いのも予防線かもしれません。男が男のロマンに走っても、女が男以上に強かったら男尊女卑にはなりようがないですし。
——『2R』ですが、あらためてセ—ルスポィン卜や思い入れをお聞かせください。
田内:僕としては新作のつもりです。ゲーム業界にあるリメィクの部類のものじゃないんですよ。ただ本筋は変えてません。映画とかでもありますけど、「原作のそこ変えたら違うでしょ」ってありますから。一部拾いきれてない部分もありますけど、『2』本編にかかわるセリフの一言一句ほぼ変えていません。そのうえで足した結果あのボリュームに。
——攻略本も厚くなりますよね(笑)。
田内:成立している『2』に、あとは足すしかないんですよ。WANTEDも戦車も『3』レベルに増やして、仲間も『3』のヌッ力の酒場を入れようと。だからかWANTEDを増やしたらそれに関するダンジョンを、戦車なら専用のクエストも増えるんです。
あえて変えたのはマップです。規模を『3』と同じにしたかつたので足りない地形を足して、あとバトー研究所の位置も「あれは遅いだろ」と変えました。『2』のあのタイミングで製造戦車が手に入っても、主力戦車は決まってるだろうし、仕掛けが意識悪すぎたので余計遅く感じられたかもしれません。
あと『2』を知っている人間ほど驚くような仕掛けは作りましたね。賞金首と戦ってると別の賞金首が乱入してくるとか。いかに『2』を知っているユーザーを驚かせょうかと。遊んだのは四天王の職業ぐらいですね。
——『2』の話題ということで、「LOVEマシン」というアイテムが当時斬新でした。
宮岡:桝田さんが考えられたんですよ。もともと彼とは「カセットテープを拾つて,テープレコーダーで流す仕掛けを作りたいね」って話していて、それをチップに置き換えて生まれたアイデアです。建前上は救済策ですね。
田内:LOVEマシンという名称を、宮岡さんは一度却下されたと聞きました。名称を使うなら条件があって、「世界に一つしかない」というフレーズを入れてくれ!って。それでルナとサニーのセリフに使いました。
——「哲学の池」で、池の中心に目玉みたいな存在・ゼンがいて、深いことを言われます。あれは一体?
宮岡:僕の中では小松左京24)的なものです(笑)。小松左京さんのSFって、ハードなやつは読んでもよくわからないんですよ。「果てしなき流れの果に」25)とか、何を言いたいのかさっぱりわからない。だけどそこが面白いじゃん、というのがあって。子どもの頃って世界つてよくわからないじゃないですが。ちょっとわかつた気になるけど、そこを突つ込まれると「え、そういえば!」みたいになってよくわからなくなる。そこをやつてみたいという気はありました。
——「ソラリス」26)かなと思いました。
宮岡:「ソラリス」も好きですよ。池の元ネタとしては確かにそうですね。
——『4』では『メ夕ルマックス』シリーズでは初の完全3Dとなりましたが、2Dと比ベて一番大きかった部分はございますか?
宮岡:『EverQuest』にハマつていた連中が作つたものなので、3Dになった時点で良かったなあって(笑)。世界自体を3Dにたかった。単純に言えば戦車の装備を変えたら、その結果のままフィールドを走りたいとか。2Dだとデフォルトされたものを用意したり、記号的な表現に落とし込む作業が必要なんですが、ポリゴンだと記号化しなくていいので。
——制作中であった『WE』や、先に『メタルサーガ』シリーズで3D化していた『砂塵の鎖』などと比ぺて、差別化などや経験を踏まえた表現などはございますか?
宮岡:『砂塵の鎖』は基本的に参加してないんですよ。ある日「こういうの作ってます」って見せてもらって、その時「ちょっと違うな」とは思いました。それでもほかの人たちが自分たちのゲームを作るとこうなるのか、こう差が出るのかというのは面白かつたです。たとえば戦闘で装甲タイルを0にすると、素早さが上がったりするんですよ。そうすると実際には「貼らずに戦ったほうがいいんじゃないの?」って。ただ、われわれはそれを踏まえてという意識はないですね。
——3Dで戦闘に表現の幅が広がりましたね。
宮岡:遠距離戦は素晴らしかったね。ミサィルがヒューって飛んでいって気持ちいい。
田内:普通の戦闘だと、あの距離で砲撃しないですもんね(笑)。
——「オートラン」のアイデアは?
田内:あれは宮岡さんたっての要望です。
宮岡:あるとないとだいぶ違うと思うんで。ネトゲをやっているとね(笑)。わき見をする余裕ができたというか。
田内:プログラマーの方が調整してくれましたね。よくやってくれました。
宮岡:それでも、いつオートランをやめるか、という点でひと悶着ありましたけどね。あとオートランのまま町に入つたら、それを継続するのかとか。細かい配慮が多かったんですが、うまくまとまったかなと。
——作のサブタイトルであり、クラシック音楽として引用されてました「月光」に秘められた思いを教えてください。
宮岡:シリーズ作曲担当の門倉さんが、日本有数のキーボード奏者ということで、彼自身が弾いた曲を前々から流したかつた、というのはありました。今回賞金稼ぎの集団を出すときに、名前を何にするかつてところで出てきましたね。最初は月光ではなくテンペストを考えていて、けっこう長い間、どちらにするか悩みました。
——鬼婆のピアノがうまいのは?
宮岡:父親が音楽家だった。母親が軍属の科学者になった時、父は音楽家で「戦争なんかにかかわりたくない」という理由で離婚した。その鬼婆に教わったからズキーヤもうまいということですね。それで「おばあちゃんがひとりでピアノを弾いている」という画を思い浮かべて、「月光」に決めようと。
——物語の冒頭から行動を共にし、主人公の成長を見守り、乗り物に変形するサーシャですが、個人的に手塚治虫先生の「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」27)の女アンドロイド、オルガを思い出しました。
宮岡:オルガは知りませんでした(笑)。サーシャがアンドロィドなのは、前からマリリンとか女アンドロィドを出していた流れです。もともとはクロモグラという超兵器自体に意思があるという形にしたかつたがどうしても無理がある。そこで人間型のエージェントに落ち着きました。シナリオ的な必然で、何かをイメージしたというわけではないですね。
田内:冒頭でいかにプレイヤーを驚かせるかを考えた結果です。『メタルマックス』でお姉さん的キャラを出すとコアなユーザーほど1作目を想像されると田心うので、最初にアンドロィドであることで驚かせて、それだとまだ想像の範疇かもしれないつて、人間でもあり、クルマでも.あるキャラクターを出そうと。
——サーシャのバイク変形時、背中ではなく腹部に乗る形状だったことに驚いたユーザーも多かったようです。
田内:主従関係みたいになるのが嫌なんです。背中だと馬と人間みたいになるから。
——『4』でもさまざまな女性キャラクターが登場し結婚できますが、唯ーアビィさんのみ結婚できません。やはり主人公と年が離れているのが問題なのでしょうか?
宮岡:ボイス収録のために早くシナリオを仕上げる必要があって、難しい部分は飛ばして先へ先へと書いて行って、結婚の部分を描き忘れてしまったという。完全な僕のミスです。無理してでも書き足すかどうか悩んだのですが、もうボイスの収録が終わつていたこともあり、泣く泣くあきらめました。
——今回序盤で手に入るクルマが「デマーエ」「レーサー」「コルレオーネ」「スーバーカー」など非戦闘車両をベースとしたもので、戦車の登場がその後なのですが、ミリタリーファンでもない方に向けて遊んでほしいという意図だったのでしょうか?
宮岡:今回は声優さんも起用していて、今までやったことのない入にも遊んでほしいというふうに作ったので、最初に戦車を出さずに、身近な乗り物から入ってます。
田内:コルレオーネって最初ハマー28)だったんですけど、「普通の人は知らないだろ」と。戦車の登場は遅らせたつもりはないですね。べルエポってもっと早くたどり着くはずで。『2R』で言えばバザースカ、そんなに遠くはない。でも思いのほかベルエポまでのシナリオが満載で、舐め尽くすょうに遊ぶユーザーにとつては遠いんです(笑)。
——『4』でも豊富日なクエストが楽しめるんですが、中でも「宇宙ステーション」はかなりのインパクトがありました。
田内:『3』の再生カプセルを作るシーンで背景に地球が映っていたので、『4』の宇宙ステーションはあれの延長ですね。やり残したことをやるためにやった。
——今後のシリーズでさらに宇宙について描かれる構想はございますか?
田内:冗談半分で月面をやろうかって話してますね(笑)。
宮岡:火星が今マッピングされてきてるんで、火星表面を戦車で走ってみたいですね。
——宇宙ステーションでの戦闘でカメラファングルが不安定なのは?
田内:マッブの構造上、普通に対応しないとああなるので。普通のザコ敵と戦うのに、逆さまなら宇宙っぼいしいいかなつて。ただ、さすがにボス戦で「逆さまはないな」って、そこだけ普通にしています。
宮岡:ポリゴンならではだよね、構造上でそうなっているから、プログラム的に必然的にあのような表示になる。
——宇宙ニンジンやスペースビーなど、「エイリアン」的なSFホラーの空気が楽しめました。こちらは何か好きなSFドラマなどの影響はございましたか?
田内:宇宙ステーションにモデルはないです。やりたかったのは、人間がその気もなしに絶滅させているものってあるじゃないですか、害虫駆除とか。でも実はそいつは別のことで有益に働いてて、殺すととんでもないことになる、そういう話を描きたかった。それをやるには限られた空間じゃないと表現しづらいんですょ。「この辺一帯の何かが全滅した」を、『メタルマックス』のマップだと「どこからどこまで?」ってなる。そこで宇宙ステーションがピッタリだった。むちやくちやな話だけど、『3』があったおかげですね。みんなダィコンデロガとか知ってるんで。
——シリーズを通してダジャレ的なネーミングが多いシリーズで、『4』でも「スパイツリー」や「ダーマス神殿」など、ブラックユーモア的なセンスが光ります。一番お気に入りのネーミンググはございますか?
宮岡:「ブドウ館」だね。あそこの名前がなかなか決まらなくつて、ワイン作る場所だから最初は「シャトー」とかいろいろ考えてたんだけどどうにもはまらない。散々悩んでたら「ブドウ館」が出てきた。「おー、すぐそこにもあるし!」29)って(笑)。あれはわれながらうまいこと決めたなと。
——ダーマス神殿のダーマス様の教えで、主人公は本当にスプーン曲げを覚えてしまいますが、彼はもしかして本物の超能力者?
田内:あの集団は詐欺集団だと思うけど、彼はどうやら本物らしい(笑)。
宮岡:神様がいない世界なんで。宗教はなくはないんだけど、教会組織が崩壊してるからね。ダーマス神殿は詐欺集団として残つてますが(笑)、あんまり突つ込みすぎるとたたかれそうだしね。怖い世界。
田内:ふざけるしかないんですよ。『3』のハッピー教団みたいに。これはパロディなんですよ、お笑いなんですよって。
——シリーズ初の有料ダウンロードコンテンツに関して、実装に至った経緯や、その反響についてお聞かせください。
久保:エンターブレインの要望です。ちょうど3DSでダウンロードコンテンツが始まつた時期で、当時数える程度しかなかった。ただ今後はメジャーになつていくだろうと思つて、上層部と相談して売ることになりました。
田内:コンテンツの物量の多さは最初からでした。戦車やWANTEDに関しては、特典につけょうとかで減りましたね。
久保:WANTEDの四天王も最初は配信予定でしたが、販売サイドからの強い要望で、限定版にパッケージングすることになりました。ユーザーさんにとってはダウンロードコンテンツの切り売りという点で「受け付けない」って風潮も多かつたと思いますし、こちらも危惧があつたのですけど、結果お客さんからは良い反響がいただけたかなと思います。
実際、あのボリュームがすべてROMに入るかと言われると容量的に相当厳しい。とくに今回はアニメーションやボイスを入れてあつて、そこが半分を占めてますね。
——かなりコンテンツが豊富ですょね。
久保:最初任天堂さんから「多すぎ」って言われたんですよ(笑)。ただ、任天堂さんも『ファイアーエムブレム覚醒』でダウンロードコンテンツを積極的に買ってくれているユーザーがいるので、できれば入れていただけたほうが、という話はありました。気をつけたのはダウンロードコンテンツを一切使わなかったときのゲームのバランス調整てすね。
宮岡:最初は否定的な意見が多かったんです。ダウンロードコンテンツで評判を落としているタイトルもあったので、それと同じことをやるんじゃないかと。実際に買って遊んでもらったら、「こういうものならぃいじゃん」って最後は理解していただけたと思います。
田内:文字どおり追加コンテンツなんです。ゲーム本編はユーザーさんから言われてるとおりボリュームがあつて、そぎ落としたものをダウンロードコンテンツにしているわけではなく、別途で用意したものなので。
——一番人気のあったものは?
久保:圧倒的にキャラクターですね。もちろん戦車なども人気はありましたが。
宮岡:戦車はシステム上持てる台数が決まつているので、欲しいと思つてもいつぱいだったりするんです。どれも捨てたくない状況になつて。そこの仕組みをもう少し考えていれば、もつと戦車が売れたかもしれません。
——『4』は音声やアニメーションなど、演出に特に力を入れられていると感じました。
宮岡:音声収録は2週間ぐらいで終わるかなと思つたんですけど、2ヵ月ぐらいかかりました。こだわつたのは「描きすぎない」こと。どこかに想像の余地を残すぐらいで。僕もRPGユーザーのひとりなんで、あんまり長いイベントとかが始まると「うーん」ってなっちやうんですよ。特に序盤、キャラもあまりつかめてないのに掛け合いとか始められてもわからないですし。なるべくユーザーを置き去りにしないようにとは思いました。
久保:音声に関しては、もう少しボリュームを入れる予定だったんですけど、容量の都合でそぎ落とさなければならない時、山のような資料を前に、2週間ぐらいキャラの選別をしましたね。
田内:とにかく2ヵ月ですからね、声優さんともだいぷ仲良くなりましたよ。
宮岡:何人かには聞いたんだよ「恨んでない?」つて(笑)。
——アニメーションの制作は、ゲームの制作とは別にどの段階から始まっていましたか?宮岡アニメは当初の予定よりだいぷ遅れましたよ。最初に出てくるはずのものがなかなか出てこなくて、台本を作ったりセリフを決めたりするんですけど、どんなものが出来上がるのかが見えないまま、やらなきやならなかつたのがキッかったですね。
久保:もちろんスタジオ4℃さんのスケジュールもあるんですけど、儀らとしてはそれを見ながら、ゲームとどうつながるかを想像でやるしかなかった。たとえばオールドソングでウキョウと出会うシーンで、背景にいる町の人の種類や数、「こんなに多かつたつけ?」って。あと、ムービーのすべてに字幕を入れる予定だったんですけど、タイムオーバーでした。
宮岡:収録の段階だと尺が足りてなかったりとかね。サーシャがすごい良いセリフ言うんだけど、尺が足りない。かといつて早口でこれを言わせるのもちょつと……つて。
久保:僕らもアニメーション制作は初めてなので、最初はアニメ制作会社さんとコミュニケーションが難しかったですね。僕らがやりたいことをうまく伝えられなかったり。
田内:ゲームと違って、アニメは直せないってのが一番キッいですょね。
久保:リップシンクにも苦労しましたね。仕上げは門倉さんとピュアサウンドさんという音屋さんが一緒になって、映像に対する音付けをしました。それこそSE、ボイス、バックに流れる環境音楽に至るまで。1シヨットのみで流れるBGMも門倉さんの事務所で作って。それでMA30)。ロパクが速かったり遅かったり、ギリギリで調整しました。
——オープニングアニメでは、がれきの山から出てきたキユビズマに、Rウルフが立ち向かっていく構図がヵッコよかったです。
宮岡:キュビズマが一番立体にしやすかったんです(笑)。ただ、ほかのシーンと比べてもやっぱり出来が良かった。だから急きよ、オープニングで見せることになつた。
田内:映像としでRウルフがWANTEDと戦うシーンは絶対要るだろうとは思いました分みんなが見たいし、最初に見せたいと。
宮岡:最初から戦車が砲弾を撃つというシーンンは見せたいとは思ってました。実は以前『砂塵の鎖』の販促アニメ31)がぁって、戦車が弾を撃つシーンが一瞬流れるんですよ。それでコアなファンが大喜びしてたんで、それから戦車が砲塔を回転させて弾を撃つシーンはやりたいなと。
——今回歌を入れようと思ったのは?
宮岡:最初からですね。情緒的に行こうというのは決まっていて。感情に響くように作ろうと。新規ユーザーが欲じかったのとリンクしてるんですけど、今まであまりに殺伐としてたんで、今回並普通の人でも「ちよつとやってみようかな」って導入を目指しました。
——感情に響くシナリオはどうでしたか?
宮岡:向いてないなと思いました(笑)。やっばりドラマの人じゃないなと。感情よりも前頭葉を刺激することを目指して仕事して来た自分とは、方向として正反対でしたから。やり慣れてないだけかもしれないけど、ゲームでやるのつて難しいですね。
久保:アニメや映画なんかだと枠の中で盛り上げるシーンがあつて、そのルーチンでここで泣かせるとか、システマチックにあると思うんですよ。でも、ゲームはユーザーに委ねられているので、そのタイミングや感情の見せ方は難しいと思います。
宮岡:自分が見せたいと思うものを見せると退屈だったりするんだよね。その人にとっては別に見たくないかもしれないし。「これ本当に見たいのかな?」とはよく思いました。
田内:あと感情的に走るとシーンが似てくるんですよ。あの量は全部泣かせられない(笑)。『メタル』で泣くシーンはあるけど、全部それでいいの?って。
——今回「泣いた」という人も多いそうで。
宮岡:どちらかというと笑うつもりで遊ぶ人が多いらしいですけど、「泣くのかよ才レ」って(笑)。でも、そういう意味では今回泣かせにかかりましたからね。ムービーを入れるときも、門倉さんがうまいタイミングでBGM入れると、自然とグッときたりするんですよ。それまで普通だったのに急に涙が出るの。音はデカいですね。
——3D視点での演出はどうでしたか?
田内:一番大変だったのは移動時のカメラ。ユーザーさんはほぼストレスなく移動できたと思う。全シーンでストレスのないカメラ配置にしたので、フルポリゴンのゲームなのに、操作がほぼ2Dなんです。ダムの地下とかわざと3Dにさせるシーンもありますけどね。
久保:LRボタンでカメラ移動とかやつてないですね、僕らが嫌いなんですょ。裏に行ったら「宝箱はあるか」つてカメラを回さなきやいけないとか、面倒くさいじゃないですか。
——デバッグも相当苦労されたのでは?
田内:全部手付けなんで、カメラをつけては試しての繰り返しで、確認作業が入るんでどうしても時間かかるんですょ。普通の3Dゲームなら『カメラでご自由に」つてユーザーに任せるんですけどね。だから逆に「そうなんだ」ってわかりました(笑)。こんなのいちいちやつてたらゲームが完成しないって。
——ゴッドモードをはじめ、難易度設定についてお聞かせください。
久保:らが考えるよりもユーザーさんの進行が早くて、どんどん先に進まれますね。
田内:ロジック的には敵がどんなに強くても到せるようにはなってます。それぐらい『メタル』のクルマ改造やLV999のキャラはとんでもない。そこまで想定するとゴッドはまだ甘いですね。コアユーザーの中級ぐらいで、さらに上級者を相手にすると10倍ぐらいは強くしないといけないかなと。
ただ『2R』や『4』は敵をキラ化して強くさせられるので、超上級者は自分で強くして遊んでますね。
——スクリーンショット機能に関してはどのような狙いがあったのでしょうか?
田内:ツイッター前提の機能ですね。みんなが自分の戦車を撮るというのは、『3』『2R』から見えていたので。3DSならカメラ機能もあるから搭載しようと。
——ネット上に写真をアップするうえで、ネタバレなどの危惧はございましたか?
宮岡:かなり売れてるソフトならわれわれも動くんですけど、「もうちょつと売れてくれ」って感じだったので(笑)。
田内:一週間でラスボスにたどり着ける人は少ないだろうという確信もありました。全部知っている人間がテストプレーしても30時間以上かかつていたので。普通のユーザーさんなら100時間ぐらいかかるだろうと。
——携帯機でのリリースが続いてますか今後のハード展開については?
宮岡:僕個人としては据え置き機でやりたいけど、たぶん「それはムリ」つて言われる状況(笑)。くやしいけど。
田内:市場の問題ですね。据え置き機全盛期なら問題ないんでしょうけども。
久保:あとは『メタルマックス』フアンに向けてなのか、オールユーザーに向けてなのか、そういうことも考えていかないと。ユーザーさんあってのシリーズなので、良い意味で裏切りつつ、フアンを大事にしていかないと。そういう意味では次のシリーズ展開も大きくいきたいなという気持ちはあります。
——『メタルマックス』はフアミコンで生まれたRPGで、『ドラクエ』『FF』『女神転生』などに並ぶ、現在まで続くシリーズとなっております。シリーズが続く秘訣みたいなものはございますか?
田内:続いてるって言えるかな(笑)。17年間空いちやつたし。
宮岡:ギリギリのところでかろうじてつながつたつて感じだから。運じゃないかと。ただ他作品と似ないょうにってのはいっも心を碎いてきましたから、こういうゲームをずっと好きでいてもらえるのは、こういうゲゲームがほかにないからだと思います。
田内:「自然と腰が浮くようなゲームにしよう」ってよく宮岡さんが言うんですよ。「えっ」て驚いて、テレビを見ようとしやがんだ姿勢で腰が上がる。昔の据え置き機全盛期のゲームってイスでダラダラ座りながらやるような感じだったんですけど、驚いたりすると急に起き上がって、サプライズ的な要素は必ず入れるよう心がけてます。
宮岡:そうなると、ますます据え置き機でやりたいよね。さつきの話だと球体の宇宙ステーションでどうなるのかとか。現実にはないことが視覚化できるとか。だから一度ハイクオリティの据え置き機でやってみたい。
——『メタルマックス』以外に、クレアテック様のタイトルで復活させたい作品は?
宮岡:できればみんなリポートさせたいですけどね。『ヒーローコネクション』32)は携帯アプリだったけど、割と面白かつたので。どうにかなりそうな雰囲気があるので、どうにかならないかなと。スマホって考えれば『ピキーニャ』33)もありますね。
——スマホで思い出しましたが、『鋼の季節』でオールタッチ操作がございましたね。
宮岡:あれは大不評だったね(苦笑)。あの頃任天堂さんに企画を通すには、タツチ操作が不可欠だったんですよ。それでいつもはボタン操作なのに、あるところではタツチ操作になる。僕としては美しくないなと。タツチを使わなきゃいけないなら最初から全部使えるようにしたらどうだと、デザイナーとしてそういうところにこだわつてしまつた。もしあの時ちゃんとデザィンしていれば、今の世の中に携帯ゲームとしてまんま落とせたと思う。タツチで遊ぷには早すぎた。しかも予算もあまりなくて、調整しきれなかった。
ただ、あの頃からタツチでやれるだろうという思いはありましたし、クォータービューのゲームだったんで、十字ボタンではロジツクとして美しくないというのもありました。
——今はスマホでタッチ操作が主流ですよね。
宮岡:俺ってそんなことばっかり(笑)。
田内:『ヒーローコネクション』も、SNS的な要素がありましたからね。iモードでメッセージのやりとりとかできたんですよ。
——「新MM通信」34)で『真・女神転生』x『メタルマックス』という話がございましたが、これはどういった構想でしょうか?
田内:企画書書いたんですよ。アトラスさんの誰かが見てくれて、その気になつてくれればいいなあと。何も反応ないですけど(笑)。『メタル』の世界に次元の亀裂ができて、悪魔が出てくる。最初は悪魔もWANTEDモンスターみたいに扱つてたけど、どうやら違うみたいだぞと。そこにデビルサマナーが現れる(笑)。世界観としてはそこまでズレてないとは思うんですよ。
宮岡:面白そうじゃん。
——悪魔に対して、「なんたいキャノン」や「うろつきポリタン」って(笑)。
田内:悪魔合体の中に種族があるじゃないですか、あれで「戦車」があるんですよ。で、サキュバスとバイクでしたらサーソャがてきるとか(笑)。
——『メタルマックス』に美少女的なコンテンツを盛り込まれたりは?
宮岡:特にダメとは思つてないですよ。実際考えたことありましたし(笑)。ユーザーの拒否反応もあると思いますが、シナリオに必然性があれば、やつてもいいかなと。
田内:それも『ラブマックス』って企画書書いたんですよ。女の子と戦車に乗ってニ人旅するという(笑)。
——今後のシリーズ展開も期待しております。本日はありがとうございました!
メタルマックス:ワイルドアイズ
■ドリームキャスト
■アスキー
■未発売
©2000 ASCII Corp./DATA EAST/Crea-Tech
著作權表記は、当時のものです。
シリーズ初のフル3DRPGとして、2000年頃に作られていた未発売タイトル。物語の舞台はアメリ力(年代などは不明、ノアの軍勢もバイアス・グラッブラーも不在)、本インタビュー内でも触れられているがラブストーリーを強く意識したシナリオが予定されていた。『4』を思わせる多面的なカメラアングルでの戦闘シーン(右下の写真にあるドラム缶は、戦闘中に遮蔽物として運用可能だったとのこと)や、キャラクターの名前の横にある顔アイコンなど、後のシリーズでも見られる要素が確認できる。当時はゲーム雑誌以外での情報公開も多く、東京ゲームショウ2000春で出展されたほか、とあるゲーム情報番組では数十秒の映像告知も流され、どちらも「今夏発売予定」とアナウンスされていたものの発売は延期され、やがて発売元のアスキーのゲーム制作撤退を理由に発売中止となった。
Text=編集部
※編集部が独自に考察したもので、公式の見解や設定ではありません。
『メタルマックス』シリーズで共通して語られることは、その昔マザーコンピュータ「ノア」が人類に反旗をひるがえし、あらゆる機械をハッキングし、凶悪なパイオモンスターを作り出すなどして、人類に対して徹底攻擊を行った伝説の〈大破壤〉を経た、荒れ果てた世界が舞台ということ。ただ『3』の設定資料集では宮岡氏より『いまから近い未来、99.9%の未来で大破壤は起こっているけれど、ある未来では『MM』の出来事が、ある未来では『MM2』の出来事が起きている」と明言されている。実際じキャラが别作品にも登場したりするので、厳密な時系列というものは存在しないが、それでもゲーム内の情報から大まかに時系列を推測し、あえて考察してみた。
ます大前提として1作目がスタートラインに位置する。その理由は明確で、ノアの機能がまだ生きており、人工的な地震が度々発生しているからだ。後に多くのシリーズが生み出される『メタルマックス』だが、この地震は1作目にしか起きていない。
次に『2』『3』『4』が登場するが、それぞれにつながりや歴史の前後两係があるわけではなく、あくまでどの作品も1作目以降の出来事であるということで並列している。なお『2』のみ後日談として『メタルサーガ:旋律の連鎖』が存在する。こちらはバイアス・ヴラドの復活を試みる敵が出現、さらに生き延びていたテッド・ブロイラーが新たな四天王を率いて再登埸する。『3』では「ノア」が倒されたらしい」という噂が流れ、『4』は物語の始まりこそ、ノアの軍勢から撤退する50年前のコールドスリープから始まるが、50年後の未来にノアの姿は見当たらなかつた(ダウンロードコンテンツで登場するものの、ほかに歴代主人公も登場するなど、ファンサービスの域である)。
『メタルサーガ:鋼の季節』では世代交代が済んでおり、1作目でノアを倒した伝説のモンスターハンター、その息子が主人公として登場する。さらに『メタルサーガ:砂塵の鎖』では世界は荒廃しているものの町は復興の兆しを見せ、新たな鉄道まで運行を始めている。同じく鉄道が機能している『メタルサーガ:ニューフロンティア」とともに、シリーズでは最も未来の話と考えれるかもしれない。
Text=編集部